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アヤカシ堂の聖なる魔女  作者: 永久保セツナ


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53/60

第53話:黒猫の帰還・前編

 それは、何の変哲もない日常。

 相変わらず神社には客なんか来なくて、店長は「暇だな」なんてこぼして。

 外は木枯らしが吹いているから、鈴は「さむーい」と震え上がって、俺がストーブの電源を入れたときだった。

 境内に誰かが入ってきた気配がした。参拝客だろうか、なんて思う。

「賽銭くらいは落としていってくれるといいが」と店長が社務所の受付からその客と思しき人物を見たときだった。

「――黒猫、様?」

 後ろで一本結びにされた、美しい銀髪。

 ひと目で日本人ではないと分かる、灰色の目。

 首から下げられた十字架。

 真っ黒なロングコートに、黒いズボンと黒ずくめのその姿は。

 紛れもなく、俺が店長から何度も聞かされた、黒猫その人なのである。

「……百合か」

 黒猫さんは黒いマスク越しにくぐもった声で言葉を発した。

「はい、天馬百合でございます。お久しゅうございます」

 俺が驚いたことに、天馬百合――弁財天という女神の一柱が、なんと黒猫さんに向かってうやうやしくひざまずいたのである。

「とにかく、お上がりください。なにか温かいものを用意させます」

「いや、食事はいい。腹は減っていないんだ」

 社務所の玄関に上がり、そこから様子を見ていた俺に、黒猫さんの視線が注がれる。

「……この少年は?」

「アルバイトで入った新人でございます」

「ば、番場虎吉です」

 半吸血鬼であることを自己紹介するのは自重しておいた。黒猫さんはヴァンパイアハンターだったと聞いている。下手に殺されたくない。

「……そうか」

 黒猫さんは大して興味を持っていないようだった。店長を伴い、居間へと足を運ぶ。

 すれ違ったときに、俺はある違和感を覚えた。

「……鈴、なんか変な匂いしねえか?」

「匂い? 別に?」

「そっか……気のせいかな」

 俺は首を傾げながら、鈴とともに店長と黒猫の後を追って歩く。


 居間で、店長と黒猫さんは思い出話に花を咲かせた。その中には鈴が仲間に入った後の出来事もあったので、鈴も話に混じって盛り上がる。俺だけ蚊帳の外のような気がしたが、黙って聞いていた。

 次に、店長が黒猫さんのいない間のアヤカシ堂の様子を語る。黒猫さんのいないアヤカシ堂を鈴や使い魔たちとともに守り、俺が仲間に入ったり、イービルとかいう変なやつにつきまとわれたり、様々な妖怪を打ち倒したり、天界から弟が遊びに来てそのまま天界に連れ去られたり、話のネタは尽きない。

「……いいんじゃないか? そのイービルという者と付き合ってみれば」

「え……?」

 黒猫さんの言葉に、店長は目を見開く。

「し、しかしイービルは黒猫様の天敵である吸血鬼ですよ? しかもファッションセンスが皆無だし……」

「ファッションくらいお前が教えてやればいい。それに、俺はもうヴァンパイアハンターじゃない」

「……どういうことですか」

 店長は困惑した表情で黒猫さんに問う。

「俺はアヤカシ堂を捨てた。その時点で俺はアヤカシ堂の人間ではない。――俺は、店長の座を退く」

「――アヤカシ堂を、引退するということですか!? そんな……急に……」

「……少し、外を散歩しないか、百合」

 黒猫さんはゆっくりと椅子から立ち上がる。店長はおとなしく付き従った。

 その黒猫さんのコートがふわりと揺れる動きに合わせて、やはり妙な匂いがする。なぜかうちのおばあちゃんを思い出す、不思議な匂いだ。

「鈴、ちょっと覗いてみるか」

「も~、お兄ちゃんはまたそういう出歯亀みたいなことする……」

 そう言いつつ、鈴はついてきてくれた。


〈続く〉

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