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第5話:ミノタウロスの迷宮

 建物の中は見かけ以上に広く、入り組んでいた。

「うわあ、なんすかこれ……まるで迷宮だ」

「まるで、ではなく、迷宮そのものなんだろうな」

 百合は壁を叩きながら言った。

「どういうことですか?」虎吉は首をかしげる。

「ミノタウロスは……神話では迷宮の最奥にいる……」鈴がぼそりと呟いた。

「そう、本来は普通の建物なんだろうが、おそらくはミノタウロスの魔力で迷宮に変容させられているんだろうな。ここは異界化している」

「へえ……それじゃ、この迷宮を進んでいかないと奥にいるミノタウロスにはたどり着けないのか」

「ふん、こんな広い迷宮、真面目に攻略してやるものか」

 虎吉の途方もない考えに、百合は鼻を鳴らした。

「それじゃ、どうするんです?」

「決まってるじゃないか。――この壁をブチ抜いて一気に奥まで行くぞ」

 百合は懐からバッと大量の御札を広げて臨戦態勢に入った。

「ははは……店長らしいや」

 虎吉は苦笑しつつ、棍棒を握り直した。

「それでは……突破!」

 百合と虎吉は一直線に壁をぶち破り始めた。何枚も何枚も真っ直ぐに壁を貫通させていく。香澄は唖然としながらも、壁の穴をくぐり抜けて三人に見つからないようにあとを追った。

「お姉ちゃん、私も手伝う」

 驚いたことに、鈴は百合の影に潜り込み、同化して巨大な黒い影の竜に変身した。そして、その強靭な腕で壁を吹き飛ばした。――彼女もまた人間ではなかったのだ。

 どうやら建物内が異界化しているというのは確からしく、壁を破った向こうに妖怪が時折たむろしていた。

「邪魔だ邪魔だー!」

「うわ、何だァー!?」

 百合が妖怪を蹴飛ばし、妖怪たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。敵なしすぎる。香澄はまたあっけにとられた。と、香澄の背後から何かの唸り声がした。

 振り返ると、妖怪が牙をむきだしてこちらを威嚇していた。

「あ、やば……」

「グルル……」

「ば、バカ、あっち行って……!」

「シャアアアアア!」

 身の危険を感じ、ギュッと目をつぶった香澄だが、その妖怪を虎吉が棍棒で殴って吹っ飛ばした。

「香澄、大丈夫か?」

「と、虎吉ぃ……」

「ったく、馬鹿だな。中までついてきやがって。外で大人しく待っていればよかったんだ」

 虎吉はため息をついた。

「いつから私がついてきてるって気づいてた?」

「神社の前で別れてからついてきてたのは知ってた」

 最初からじゃないか。

「虎吉、お嬢さんは無事か?」

 壁の穴から百合が歩いてきた。

「大丈夫です。無事保護しました」

「無事なら良かった。しかし……困ったね。だいぶ進んでしまったし、今から外に帰すのも酷か」

「す、すいません……」

 香澄はすっかりしょげてしまった。

「いいよ、ついておいで。ただし安全のために離れてはいけないよ」

「はい!」

「あと、撮った写真はあとで処分してもらう。妖怪のことが外部に知れると困ったことになるんだ。いいね?」

「…………はい」

 香澄は渋々了承した。珍獣牛人間なんて寂れた神社のお仕事紹介なんかよりずっと刺激的なのに。

「では行こうか」

「香澄、ちゃんとついてこいよ」

「あ、ねえ、虎吉――」

「ん? どうした?」

「――あなたたちは何者なの」

 香澄の問いに、虎吉はじっと見つめ返し、答える言葉を考えているようだった。

「……ただの巫女さんと、そのお手伝いだよ」

「嘘だ」

「悪い、聞かないでくれるか。どう答えたらいいか……いつかちゃんと話すよ。ほら、行くぞ」

 背中を向けて歩き出す虎吉を見て、香澄はやはり虎吉が遠い存在になったように感じた。


〈続く〉

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