表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/60

第3話:香澄の好奇心

 取材は特に問題もなく進んだ。店長が無難な答えで『普通の神社』を装ってくれたおかげだ。

「でもびっくりしました! 神社に狛犬型のロボットが置いてあるなんて! ハイテクですね!」

「賽銭泥棒などもいて物騒な世の中ですから。驚かせてたいへん失礼いたしました」

 店長はにこやかに謝っていたが、心の中では狛村と獅子戸に対するお仕置きを考えていたに違いない。腹黒い人なのだ。

 廊下に置かれた電話が鳴った。暗い廊下の奥から、黒い着物を着た小さな女の子が歩んできて、電話を取った。

「……はい、鳳仙神社です……」

「あの女の子は?」香澄が尋ねる。

「烏丸鈴、といいます」店長が答える。「神社に住み込みで色々と手伝ってもらっているんです」

「へえ、あんな小さいのにえらいなあ。あんたも見習いなさいよ」

「俺だって働いてるっつの」

 香澄が肘で小突いてくるので、俺はしかめっ面で呟いた。

 通話を終えた鈴が応接室に入ってきた。香澄の姿を認めると、ぺこりとお辞儀をする。両手に黒い竜のぬいぐるみをしっかりと抱きしめ、紅の瞳が香澄を捉えた。香澄もその目に見とれていたようだった。しかし、その時間はそれほど長くはなかった。挨拶を終えた鈴がすぐに目をそらし、店長のほうを向いたせいだ。

「お姉ちゃん。お仕事の依頼」

「ん、そうか」

 たったそれだけの短い会話だったが、二人は何もかもわかっているようだった。

 店長は香澄の目をまっすぐ見つめる。店長の爬虫類か猫を連想させる鋭い金色の瞳は、有無を言わせない妙な迫力があった。

「申し訳ありません。仕事が入りましたので、取材はそろそろよろしいでしょうか?」

「お仕事というのは、何を……?」

「お祓いです。一応神社ですので」

 店長は微苦笑を浮かべた。彼女とて、この神社の良くない噂は知っているのだ。

「そうですか。わかりました、こちらこそ長々とお話を伺ってしまいすみません」

 二人は会釈をして立ち上がった。俺と鈴も香澄を見送るために歩き出す。

 石段を下りて山のふもとで俺たちと香澄は別れた。

「今日は本当にありがとうございました。お仕事がんばってください」

「気をつけてお帰り下さい」

 香澄と百合は、山のふもとで再びお辞儀をした。俺、鈴、店長に背を向け、香澄は帰り道を歩き始めた。

 ――かに見えたが、角を曲がったところで立ち止り、来た道を戻って、角から俺たちを覗き始めた。

(こうなったら見出し変更だわ。神社の仕事現場……こっそり覗いてみよう。なにかのネタになるかも)

 香澄は俺たちの尾行を始めたのである。

「――仕方ない。行くぞ」

 店長は香澄を見送ると、俺と鈴を従えて歩き出した。

 香澄は見失わず見つからないように、慎重に距離を保ちながら歩いていった。


〈続く〉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ