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アヤカシ堂の聖なる魔女  作者: 永久保セツナ


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第24話:兄と妹

 店長は、鈴の過去をそう語った。

 俺――番場虎吉も、鈴も、烏丸黒天も、じっとその話を聞いていた。

「そっか……私……」

 鈴はポツリとそう呟く。

「……この黒天って人が、私の本当のお兄ちゃんってこと?」

「そうだ」

 鈴の言葉に、店長はうなずく。

「やはり人間にロクな奴はいないな」

 黒天は怒りを露わにしていた。

「鈴、私のもとに帰ってこい。ともに人間を滅ぼそう」

「お兄ちゃん……」

 しかし鈴は、悲しそうな顔をする。

「あのね、お兄ちゃん。人間にはひどい人もいるけど、いい人もいるんだよ。黒猫様みたいに」

 鈴は身振り手振りで一所懸命に黒天に自分の思いを伝えようとする。

「妖怪だって、悪いことばっかりする妖怪もいいことする妖怪もいるでしょ? 人間も妖怪も変わらないんだよ」

「……お前は、養父に虐待されて恨んでいないのか? 本当に?」

「痛いことされるのは嫌だなって思ってたけど、恨んでなんかいないよ。お父さんは痛いことばっかりする人じゃなかったの。大きくて温かい手で、私を撫でてくれたこともあったの。悪い人は、いつも悪いことばかりしてるわけじゃないよ。もちろん、お父さんのしたことは間違ってたけど……」

 鈴は、すっかり過去の記憶を思い出していたようだった。

「私は、お父さんもお母さんも、大好きだよ」

「ッ……」

 黒天はすっかり戦意を失ったようであった。

「――アヤカシ堂」

「なんだ」

 店長に声をかける黒天に、店長が返事をする。

「鈴を、もうしばらく頼む。興が冷めた。私は人間のいないところで隠棲する」

「言われずとも、鈴は私の大切なパートナーだ。最初から手放すつもりなどない」

「……このアジトは、解体する。皆の者、ご苦労であった」

「おいおい、なんだよそれ!」

 黒天の言葉に、その場にいた敵妖怪たちが不満を漏らす。

「俺達は、黒天の兄貴の言葉に従ってここまで来たんだぜ!」

「人間に復讐できるっていうから今日までついてきたってのによォ! そりゃねえぜ!」

「妹に言われたからってやめるのかよ、この腰抜けシスコン!」

『シスコン』という言葉に、黒天が苛ついたのか、背中の翼を広げ、羽を妖怪に向かって飛ばす。鋭い針のように床に突き立つ羽に、妖怪たちが「ヒッ」とおののいた。

「……このアジトでは、『強いやつが偉い』。それがルールだ。文句があるのなら、私以上の強さを見せてみろ」

 黒天がそう言うと、妖怪たちは気まずそうに黙り込む。所詮は名も知れぬ有象無象の集まりである。人間よりは強いとはいえ、半妖である虎吉でも倒せる奴らだ。何も言い返せない様子であった。

「――私はこの町を去る。鈴、しばしの別れだ」

「あのね、いつかアヤカシ堂に遊びに来てね! 私、待ってるから」

 鈴の言葉に、黒天は初めてフッと優しい微笑みを浮かべた。

 アジトの異界空間がぐにゃりと曲がると、俺達はあの繁華街の路地裏に立っていた。もう黒天も、敵妖怪もいない。

 店長、鈴、俺、クラウド、幽子さん、ピクシーさんがその場に残っていた。

「あー、終わった終わった。ほな、帰りまひょか~」

「まだ俺、姉貴の本気の謝罪、聞いてないんだけど」

 伸びをする幽子さんに、クラウドは不満そうな顔をする。

「さっき謝ったやん。そもそも、何を怒っとるんや?」

「ハァ!? 俺が何に怒ってるのかもわかんねえのかよ! ホント信じらんねえ!」

 クラウドはゴミを見るような目で幽子さんを睨みつける。

「俺が楽しみにしてた冷蔵庫のシュークリーム、食べただろ!? ネット通販でやっと入手したちょっとお高めのやつ!」

「ああ、父ちゃんのかと思ってたわ、めんご」

「だからちゃんと謝れェ! 心からの謝罪をしろォ!」

「っていうか、僕のなら食べていいと思ってるのもどうかと」

 マイペースな幽子さんに、激昂するクラウド。そして冷静にツッコむピクシーさん。傍目から見れば愉快な家族である。

「あーもう、うるさい子やなあ。誰か人間が来てまうやないの。少し静かにしいや」

 幽子さんがクラウドの顔を両手で挟むと、細い目を見開いた。クラウドと幽子さんの目があった瞬間、クラウドはフッと力を抜いて気絶した。

「えっ、今何したんすか?」

 俺はビックリして訊ねる。

「幽子の目は『幻惑眼』という魔眼だ。目を合わせた相手を眠らせたり幻覚をかけたり出来る。化け狐らしいだろう?」

「化け狐って言い方、うちは嫌いやわあ」

 店長の言葉に不満を漏らしながら、幽子さんはクラウドの肩を抱える。

「じゃあな、百合ちゃん。今日はほんまおおきにありがとう」

「気をつけて帰れよ。お前たちは人間に見つかると目立つからな」

「はいはい。ほなな~」

 幽子さん、クラウド、ピクシーさんは裏路地を歩いていってしまった。

「さて、私たちも帰ろうか」

「あの、気になってたんですけど」

 帰り支度を始める店長に、俺は素朴な疑問をぶつける。

「店長と黒猫さんって、付き合ってたんですか?」

「――は、ハァ!?」

 店長の顔がみるみる赤くなっていく。なんか新鮮だ。

「バッ、馬鹿、私と黒猫様が釣り合うわけが……いや、馬鹿なこと訊くんじゃない! この馬鹿! ほら、さっさと帰って風呂入って寝るぞ!」

 店長は顔を背けると、ずんずんと歩いていってしまう。俺は慌てて追いかけた。

 ――とりあえず、付き合ってなくて安心したのだが、なんで俺は安心してるんだろう?

 昼と夜の間、青空と夕焼けが混じり合う空が美しかった。


〈続く〉

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