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アヤカシ堂の聖なる魔女  作者: 永久保セツナ


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第20話:奇妙な妖怪一家

「なんやてぇ!? 百合ちゃんが攫われた!?」

 店長の行方を見失い、途方に暮れた俺と鈴は、鳳仙神社の近くにあるという稲荷神社――幽子さんが棲み着いている神社だ――を訪ねた。

「黒い犬だと思ってたらそいつ妖怪だったみたいで……」

「……あー、多分それうちの弟やわ」

「クラウドってアイツだったんですか!?」

 俺はまたびっくりした。しかし、弟というわりには、幽子さんは狐で、クラウドは犬である。

「ああ、アイツは犬ちゃう。狼や」

「どちらにしろ血がつながってないじゃないですか」

「せやな、血はつながっとらん。それでも可愛いうちの弟や」

 幽子さんはωのような口なので表情はわかりにくいが、多分真剣に言っている。

「で、クラウドはその黒天とかいう奴のところに転がり込んでるんやな? ほな、とっとと行ってアイツしばき倒して連れて帰るわ」

「それなら僕も行くよ」

 不意に男の声が聞こえた。

 声のもとを見ると、モノアイのゴーグルをつけた白衣の男が歩み寄ってくる。

「あなたは?」

「僕は、みんなからは『ピクシー博士』って呼ばれてるね。ここにいる幽子とクラウドの父親みたいなもんかな」

 しかし、その男の背にはトンボのような透き通った羽が生えているのである。――妖精、なのかな。

 妖精の父親に、狐と狼の姉弟。何だこの家族。

「父ちゃんもおるならクラウドのやつも説得できるかもしれへんな。よっしゃ、ほな黒天のもとへ向かうで!」

 俺たちは宝船市にある繁華街へと向かう。幽子さんやピクシーさんはあまりに妖怪然として目立つので必然的に人気のない裏路地を進む。おそらくはクラウドもあの姿で表を歩けないから裏路地をさまよって――黒天の目に留まったのだろう。

 裏路地のある地点で、ピクシーさんが立ち止まった。

「ふむ……おそらくはこっちだ」

 ピクシーさんが先頭に立って裏路地をどんどん進む。

 やがて袋小路にたどり着いた。

「ここだな」

「ここって……行き止まりじゃないですか」

「妖精の魔力感知能力を侮ってもらっては困る。この壁を真っ直ぐ歩くと――」

 ピクシーさんは壁に向かって歩く。

 ぶつかる、と思ったら壁をすり抜けた。

「ここから異界に繋がっているんだ。この先は敵のアジトだ。覚悟して臨むように」

「は、はい!」

 こうして俺たちは烏丸黒天のアジトへ乗り込んだのである。


***


 一方その頃、烏丸黒天のアジト。

 百合は地下牢に囚われていた。

 地下牢とは言ってもカーペットが敷かれ、ふかふかのベッドにテレビ、本やゲームなどが完備されていて破格の好待遇である。これ地下牢か?

 一応門番は控えていたが、百合はもとより脱獄する気がなかった。ベッドに寝転がりながら、テレビでお笑いを見てケラケラ笑っている。

「ったく、随分のんきな人質様だぜ」

「しかし、結構美人じゃねえか?」

「美味そうだよな……ああ、腹減ってきた……」

 妖怪の門番たちは牢屋の中の百合を見てよだれを垂らす。まるでエサの前で「待て」をされている犬だ。

「ハッ、お前らにはもったいない上玉だよ、あのお方は」

 門番たちが声のした方を見ると、クラウドが歩いてきた。

「新米のくせに相変わらず生意気だなテメーは」

「おっと、ここのルールは『強いやつが偉い』んだろ? もっかい力比べするか?」

 クラウドがそう言うと、門番たちは気まずそうに黙り込む。

「お前らは下がってろ。俺はあの方に話がある」

 門番たちはチッと舌打ちをしながら地下の階段を昇っていった。

「百合姉、黒天さんが一緒に食事しようってさ。まったく、百合姉はマイペースだから鍵をかけて閉じ込める意味もないね」

 クラウドはそう言って笑う。

「――百合姉。俺のこと覚えてる?」

「クラウドくんのことはきちんと覚えているさ。しばらく見ないうちに大きくなったな」

 百合は優しく微笑む。

「いつでもアヤカシ堂に遊びに来てもいいように結界を通れるようにしたのが仇となったがね」

「ごめんね?」

「構わない。黒天に頼まれて断れなかったんだろう? 一応は居候だものな」

「ああ、そこまで知ってるんだ? ……俺、あの家に戻りたくないんだよ」

「そうか……」

 百合はうなずいた。

「とりあえず、黒天さんが待ってる。俺と一緒に来て」

 クラウドは牢屋の鍵を開けると、百合の手を取った。

 地下の階段を昇り、廊下を歩いて黒天の待つ食堂へ。

 テーブルには、既に黒天が座っていた。

 黒い髪。羽毛を寄せ集めたような黒い服。鳥を思わせる硬い鱗に覆われた手と黒い爪。紅の瞳が百合を捉える。

「ようこそ、アヤカシ堂のお姫様。……いや、『聖なる魔女』だったか?」

「自分でそれを名乗りたくはないがな」

 百合は食卓につく。妖怪の給仕によって次々と料理が並べられる。

「しかし随分と好待遇じゃないか。お前なら私に恨みを持っていてもしょうがないのに。拷問くらいは覚悟してたぞ?」

「たしかに、アヤカシ大戦で烏丸一族は滅ぼされた。私はそれを赦すつもりはない。……だが、お前は鈴を大切にしてくれているからな。鈴を悲しませたくはない」

「チェシャ猫にでも聞いてたのか。なら、なんで迎えに来なかった」

 百合は責めるような目で黒天を見る。

「迎えに行くも何も、あの神社に結界を張って妖怪が入れないようにしているのはお前だ。だからこうして人質にとって、鈴が向こうから来るように仕向けるしかなかった」

「つまり私はおびき寄せるためのエサってわけだ。なるほど合点がいった。で? 鈴を取り戻して如何とする」

「鈴さえ戻れば、もう人間に未練はない」

 黒天は椅子の背もたれに寄り掛かる。

「――本格的に、人間を滅ぼすだけだ」

「妖怪を集めて一斉蜂起する企みは、どうやら本当のようだな」

「大戦後の妖怪の立場は、それはもう酷いものだ。人間に奴隷のように使役され、あるいは山奥に逃げ延び、あるいは人間に怯えながら人間と共存という名の迎合をする羽目になった。赦せると思うか?」

 百合は何も言わない。ナイフとフォークが皿とこすれ合うカチャカチャという音だけが食堂に響く。

 そこへ、

「黒天様! 大変です、侵入者です! 知らない妖怪がアジト内で暴れまわってます!」

「どうやらお姫様をお迎えに来たらしいな」

 黒天はナプキンで口を拭く。

「食事中に無粋な奴らだな。結構美味しいぞこの肉」

 百合は食事どころではなくなる前に料理を胃に詰め込むのであった。


〈続く〉

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