第16話:アヤカシ堂、襲撃される
アヤカシ堂の平穏が崩れたのは、いつもの日常、突然のことだった。
「うーん、今日もいい天気だな」
「爽やかな夏の朝って感じっすね~」
店長と俺は、境内に出て伸びをする。
「今日は一日晴れだって」
「そうか、気持ちのいい一日になりそうだな」
店長の影にトプンともぐった鈴が店長に話しかけ、店長もリラックスした調子で返す。
鈴は普段は店長の影の中にいることが多い。影を操るという特性のせいか、明るい場所はあまり得意ではないのかもしれない。
あとは、この日のように突然の襲撃を受けても反応できるようにとか。
突如、町の方角からブーン、と機械音が聞こえてきた。
「ん?」
耳の良い俺がいち早く気づいて音のした方を見てみると、茂みから何か小さなヘリコプターのようなものがガサッと飛んできた。
――ドローンだ。
そのドローンに銃口がついているのを見た瞬間、俺は「伏せろ!」と叫ぶ。
ズダダダダダダダ。
ドローンが弾丸を連射した。
結果的に言うと俺たちは無事である。もともと半妖の俺は銀の弾丸でも食らわない限りは滅多に死なないし、そもそも店長も俺も、鈴の影の盾で銃弾を防いでいた。
ドーム状に俺たちを囲っていた影が液体のようにぬるりと足元に返っていく。
「おいおい、誰だ? ラジコンで遊んでるやつは」
「店長、あれドローンって言うんですよ」
「知っとるわ、馬鹿にしてるのか」
『ここがアヤカシ堂だな、やっと突き止めたぞ』
俺と店長が漫才をしていると、ドローンから声が聞こえた。どうやらマイクも仕込んでいるらしい。
『天馬百合、山から降りてこい。貴様はそこにいれば安全だろうが、町の人間どもがどうなるかな』
どうやら、同じドローンで町の人間を襲うという脅迫らしい。
「訊きたいことがあるが、お前はアヤカシか?」
ドローンのカメラに向かって、店長が訊ねる。
『ああ、アヤカシだとも。お前が俺を覚えているかは知らんがな』
「覚えてないかもな、私に恨みを抱いてる妖怪なんていくらでもいる」
『貴様のそういうところがますます気に入らない』
「そうかよ」
『……町外れの空き地にて待つ。一時間以内に来なければ町を襲う』
ドローンはそう言い残して空高くへ飛んでいく。
「この神社は結界が張ってあるんじゃなかったんですか?」
「結界はあくまで妖気に反応するものだ。まさか妖怪がドローンを使う時代になるとはなあ」
俺の疑問に、店長は顎を撫でながらのんきなことを言う。
「この店のセキュリティが心配だ……」
「それより早く行かないと。お姉ちゃん、飛んでいったほうが早いんじゃない?」
鈴の言葉に、店長は「そうだな」とうなずいて、目を閉じ、静かに手を合わせる。
店長から発される清らかな気が背中に集まり――翼の形になった。
「えっ、何すかそれ!? 店長って空も飛べるんすか!?」
「女神なんだから当たり前だろう」
また出た、自称女神。
しかし女神に翼が生えてるイメージってあんまりないんだよな。どっちかというと天使っていうか……。いや、店長は天使とも程遠いんだけど。
考えていると、足元の影が盛り上がった。
「うわ!」
鈴が黒い竜の形に変貌しているらしい。慌てて背中につかまった。
「準備はできたか? ――行くぞ」
エネルギー体の翼で浮かび上がる店長と、黒い竜になった鈴、その背中につかまる俺。
三人で町外れへと飛んでいった。
〈続く〉




