表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヤカシ堂の聖なる魔女  作者: 永久保セツナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/60

第11話:宝石の魔人

 ところ変わって、宝石店の前に戻る。

 爆発音がして、宝石店の壁が吹っ飛んだ。

「な、なんだぁ!?」

 増田警部に嫌味を言っていた中年刑事が目を剥く。

「まずいぞ。宝石強盗が魔石に乗っ取られた。蛇も全部吹っ飛ばされたか」

「魔石?」

 俺――番場虎吉は店長の言う聞き慣れない言葉に首をかしげる。

「宝石の中にはまれに魔力を宿した『魔石』と呼ばれるものが紛れている。お守りや魔除けに使えるものもあるが――今回のはちょっと邪悪すぎるな」

「俺が感じたアヤカシの気配はそれか」

 増田警部は店長の言葉にうなずく。

 俺も今なら感じる。敏感な鼻がプンとアヤカシの匂いを感じ取っている。

「クク……」

 店の奥の暗がりから、何かが歩いてくる。

 ズシン、と重みを感じさせる足音とともに、ソレが店から出てきた。

 真っ赤な石、というかもはや岩を鎧のように身体にまとわせた怪人。顔は赤い宝石でできたドクロのようだった。

「おいおいおい、なんじゃありゃ!?」

 中年刑事は信じられないものを見る目で怪人を視界に捉える。

「一般人を退避させろ! 急げ!」

 店長は警官たちに向かって怒鳴る。警官は巫女さんに怒鳴られたということにも気にする余裕なく、店長の言葉に従い、スマホで撮影しようとする大衆を押して避難させる。

「ったく、スマホで撮ってる場合か馬鹿どもが」

 店長は吐き捨てるように言った。

「てか、撮影されてそれがSNSとかで拡散されたらヤバくないっすか……?」

 俺はそんな疑問を差し挟む。

 妖怪の存在はなるべく周知されないに限る。余計な混乱は避けるべきだ。

「その点はご安心を。予め妨害結界を張っておいたので、スマホやカメラで撮影してもアヤカシは写らず真っ黒な画像になります。あとは特撮の撮影とでも言っておけばいいでしょう」

「鬼怒川さん有能ぅ……」

 俺は思わず舌を巻いた。

「ここからは怪異対策課の仕事だな。あとは頼んだぞアヤカシ堂」

 鬼怒川さんに押されて、車椅子に乗ったまま増田警部は下がった。

「怪異対策課少しは働けよ」

 一から十まで私がやってるじゃないか、と愚痴を吐きながら、店長は御札を広げて戦闘態勢に入った。俺も首に下げたネックレスを手に握り、棍棒くらいの大きさに変化させる。

「ここで遭ったが百年目だアヤカシ堂ォォォ! 警察から逃げるついでにお前らもぶっ潰してやる!」

 宝石の怪人は唾を吐き散らすように吠えた。

「ハハ、アヤカシ堂は随分妖怪から恨みを買ってるご様子で」

「昔、いろいろあったからな」

 俺と店長はそんな話をしながら、突進してくる怪人を避ける。

 パトカーが怪人の突進をまともに食らってぐしゃぐしゃに大破した。

「う、撃て撃て!」

 中年刑事や警官たちが拳銃を発砲する。

 キンキンと金属音がするが、鎧のような宝石の岩はヒビすら入らない。

「ああん? なんだぁお前ら、邪魔なんだよ!」

 怪人は鎧から岩を剥がし、警官たちへ投げつける。

「う、うわわ!」

 しかし、鈴が影に潜り込み、黒い盾となって岩を防ぐ。

「余計なことしないで……おじちゃんたちも逃げてください、邪魔だから」

 鈴が棘のある言い方をして、警官たちを退避させた。

「オラッ!」

 俺は飛び上がって、怪人の頭めがけて棍棒を振り下ろす。

 ガキィン、と音がして、振動が棍棒を伝わり、マトモに俺に響く。

「か……ってぇ……」

 全身がダイヤモンドで出来てるのかってくらい硬い。しかも叩いた感じかなり分厚い。鎧がマジで岩になってるんだろうな。

「効かねえなあ、ボウズ」

 赤いドクロがニヤリと笑う。

「――おらよっ!」

 逆に怪人の振り回す腕をまともに食らい、俺の身体はパトカーに激突する。ボンネットが大きく凹んだ。

「……っつう~……効くわ……」

 半妖の俺は多少身体が頑丈になっているので死にはしないが、痛いものは痛い。

「硬い岩、か。岩って何が効くんだ……?」

 店長は手持ちの御札を広げながら、対策を考える。

「まあ、とりあえず燃やしてみるか。水と塩以外はみんな燃えるっていうし」

「おいおいおい、こっちには取り憑いてる人間っていう人質がいるんだぜ?」

 怪人は自らの胸を親指で指してケタケタ笑う。

「いや、知らんがな」

 店長は一切迷うことなく御札を投げつける。

 御札は怪人の身体に貼り付くと、メラメラと燃え上がり怪人の身体は炎に包まれる。

「うあっちゃーーー!?」

「店長ーーー!?」

 俺は思わず叫ぶ。これ中の人死ぬんじゃないのか!?

「いや、だって犯罪者だし良くないか別に」

「良くないですよ!?」

 この人の倫理観が怖い。

「冗談冗談。熱したあとに、これだ」

 店長は再び御札を投げる。

 今度は炎の御札ではないようだ。炎に触れた瞬間、怪人の身体がまるごと凍りついた。

「あ……が……」

 怪人の岩が急激な熱と冷却によりボロボロと崩れていく。

「鈴! 蔵を開いてくれ!」

「はーい」

 鈴が店長の影に飛び込むと、店長は自らの影にちゃぽんと手を沈める。

 鈴の潜った影はアヤカシ堂の蔵に繋がっている。店長はその蔵から様々な魔道具を取り出し、武器とするわけである。

 店長が今回取り出したのは――刀の柄の部分しかない謎の道具。

 それを水たまりに浸ける。

 水たまりから柄を引き抜くと――水が刀身となり、水の刃が出来た。

「ウォータージェットカッターって知ってるか?」

 店長はそう言って水の刀を閃かせる。

「――水は、岩も斬れるんだ」

 斬。

 水の刃は中の男を避けてキレイに岩を斬り剥がした。頭を覆うドクロがパカッと割れて、白目をむいた男の顔が顕になる。

「やった!」

「いえ、まだです」

 歓声を上げる俺に、鬼怒川さんが冷静に近づく。

「魔石を吐き出させないと、また宝石の魔人が目覚めてしまいます」

 そう言って、ドスン、と男のみぞおちを殴る。

「グッ……オエェ……」

 男は白目をむいたまま、宝石が出てくるまで嘔吐させられる。

「ひ、ひえぇ……」

 俺は思わず悲鳴をもらした。容赦がなさすぎる。

「鬼怒川くん、手加減しないとそいつ死ぬぞ。まったく君は鬼だな……」

「鬼ですから」

 声をかけた増田警部にそう返して振り向いた鬼怒川さんの額には――二本の角が生えていた。

「えっ!? 鬼怒川さんもアヤカシだったんですか!?」

 俺は驚いた。鬼怒川さんからそんな匂いはしなかったから全く気付かなかった。

「匂いを隠すための専用のスプレーというものがあるのですよ。君はあまり鼻に頼りすぎないほうがいい」

 鬼怒川さんは冷静な口調でそう言って、白手袋をはめ、男の吐瀉物の中から魔石を拾い上げた。それを透明な証拠品収納袋の中にしまう。

「現場の収拾は他の課の方に任せて、我々は一旦引き上げましょう。アヤカシ堂の新人君にも色々説明が必要でしょうし」

「そうですね、虎吉のことも紹介したいし」

「お、そうだな、帰るか」

 そう言って増田警部は車椅子からあっさりと立ち上がった。――ん?

「増田警部って足が不自由とかじゃないんですか……?」

「ん? 単に歩くのが面倒だったから鬼怒川くんに車椅子を押してもらってただけだが」

「警部は極度の面倒くさがりで、家に帰るのが面倒だから警察署に寝泊まりするレベルなんです……」

「えええ……」

 角を引っ込めて恥ずかしそうな顔をする鬼怒川さんに、俺は唖然とした顔を向ける。最初の頃の態度はしゃべることすら面倒だったってことか。なんか合点がいった。

「行きの車は車椅子に乗ったまま来たが、車椅子だと車が揺れて気分が良くないからな。帰りは車椅子を後ろにしまって普通に乗ることにする」

「ご勝手になさってください」

 鬼怒川さんは呆れた顔で車の鍵を取り出す。

「じゃあ、皆さんごきげんよう。あとはよろしく~」

 俺たちアヤカシ堂と怪異対策課の面々は車に乗り込み、店長は車の窓を開けて警官たちに挨拶した。

 中年刑事と警官たちはぽかんとした顔で見送ってくれたのだった。


〈続く〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ