スノウとオドネル
お立ち寄りいただきありがとうございます。
ジュリアはオドネルと一緒に研究室方面に歩いていく。
「オドネル先生、お助けいただきありがとうございました。」
「いや、迷惑じゃなかったかな?」
「いいえ、助かりました。」
「そうか、よかった。実はきょう、叔父上のことが決まったという知らせを受けたのでな、それを君に話そうと思ったのだ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
そろそろオドネルの研究室というところで、へイエスに出会った。
へイエスは驚いたような目をして、ジュリアとオドネルを見て、
「どうした?」
と訊いた。
「いやあ、お前の言う通りだったよ。何の気なしに外を見たら、ジュリア君が男と話していて困った顔をしていたので、助け出してきたんだ。」
「え、またか?」
「すみません。別の方です。お食事に誘われて、オドネル先生に来ていただけて助かりました。去年私、図書係で、王立博物館の学芸員の方からご指導受けてたんですけど、その方が殿下との婚約が解消になったのなら食事に行かないかとお誘いいただいたんです。お断りしたのに、ではいつが都合が良いかと言われて困っていたらオドネル先生が助けてくださって。オドネル先生、本当にありがとうございました。」
「いやいや、お役に立てて何よりだ。」
「・・・・・・」
ジュリアはへイエスの顔を見たが、へイエスは何も言わず黙りこくっていた。
オドネルがジュリアの叔父たちのことを教えてくれる。
「へイエスが落ち着くまでの間に、君の叔父上一家のことを報告しておくよ。叔父上は刑務所行き、マクレガー家の仮の管理者からも、マクレガー家の親類からも剥奪された。また、脱税をして得た金銭の返却義務も生じたため、管財人立ち会いのもと、叔父上一家の財産はおそらく全て失うことになるだろう。叔父上は刑務所行き、叔母上はマクレガー領にも居られないので、叔母上の実家を頼ることになりそうだ。キャシーは禁呪の大罪を犯したため、終生修道院送りとなったよ。もう大丈夫、君は安全だ。」
「そうですか、いろいろありがとうございました。」
「それにしても、へイエスの気持ちが少しわかったよ。君は、君が思っているよりずっと人気があるねえ。まあ、それだけきれいで魅力的だもんな、言い寄る男がいてもおかしくないけどなあ。」
「そんなことありません。きょうはたまたまなぜかお二人の方からお声をかけていただきましたけど、こんなこと今までありませんでしたもの。」
「それは君が王子の婚約者だったからだよ。」
「じゃあ今度はへイエス先生の婚約者であれば大丈夫ですね。」
「そうだな。」
「こうなることはわかっていたんだ。俺が狭量だからいけないのだが・・・これからどうしたらいいんだ。・・・」
「あの、私、これからしばらくスノウと一緒に存在を消して出かけます。それで、へイエス先生が退職したら、婚約者として名乗っても大丈夫ですよね?そうなったらたまには姿を現しますけど。」
オドネルが
「なにその姿を消すっていうのは?」
「あっ!」
ジュリアがしまったとへイエスを見た。
「大丈夫だよ、オドネルは信じられる。」
「なんだ?なにか秘密があるのか?」
へイエスがジュリアに頷いたので、ジュリアはオドネルに話すことにした。
「実は私、生まれた時に精霊王の加護を受けていて、今はカカオとリープという精霊とおともだちなんです。それから精霊王が私を守るようにと聖獣のスノウと言う名のフェンリルをおともだちに遣わしてくれています。この子たちは姿を消してくれたり、転移魔法みたいなことをしてくれます。私の両親は、このことが知れると攫われて利用されたりするかもしれないし、王家や高位貴族や外国から狙われるかもしれないので、絶対他言するなと言われています。」
「はあ、すごいな。それで王子と婚約していたのか?」
「いいえ、あれは違います。王家はご存知ありません。あの婚約は父が秘密を探る仕事をしていたので、そのためだったのかもしれません。でも、婚約してから2年後には父も母も亡くなったのでわかりませんけど。」
「ただ単にジュリア嬢がかわいくて利発だったからかもしれないな。」と、オドネルは言った。
それを聞くと、へイエスはまた落ち込んだ。
「俺はつくづく狭量な男だと身にしみたよ。嫉妬に狂う男のようだ。いや、もう狂っているかもしれん。かといって、ジュリアをあきらめたくない。困った・・・」
「そんな・・・私、姿を見せませんし、それに、そもそもそんなに魅力もありませんから、心配なさらなくても大丈夫です。」
「これがな、この自覚のなさが余計に心配になるのだ。」
「まあ、フィルの気持ちはわからんでもないな。ジュリア嬢は自分の魅力に気づいていないようだからなあ。」
「でも、それならへイエス先生だって、とってもきれいなお顔だし、背が高くてかっこいいし、優しいし、頭はいいし、声も素敵だし」
「わかったわかった。ジュリア嬢がへイエスに惚れてるのはよくわかったからな。」
オドネルが笑っていると、
「だってほんとのことですもの。私だってやきもち妬いちゃいます。」ジュリアはふくれた。
「ま、こういうのを聞かされる身にもなってもらいたいものだな。近いうちにうちに来て、うちの家族を見てくれ。なにかの参考になるかもしれんしな。」
「はい、ありがとうございます。」
ジュリアがスノウを呼び出した。
「スノウ、すみませんけど、私の姿を消して、へイエス先生のお部屋まで送ってくれる?その前に、スノウをオドネル先生に紹介したいから姿を現して。」
スノウが姿を現した。
「おおっ、でかいな。はじめまして。オドネルだ。よろしくな。」
スノウはちらりとオドネルをみて、へイエスのところに行き、すりすりしている。
「ふふ、スノウはへイエス先生のことが好きなのよね。」
「すごいなあ。聖獣様ってすごく強いのだろう?」
「戦ったところを見たことがないのですけど、おそらくそうでしょう。スノウはいろいろな魔法が使えるし、性格もとっても優しい良い子なんです。ね。」
ジュリアはそう言ってスノウの鼻先にキスをした。
「それでは私はこのへんで失礼します。へイエス先生、今から私、姿を消して家に行き、荷物を整理して、夕食の支度までにはお部屋に戻ります。」
「ああ、気をつけてくれ。ありがとう。」
「オドネル先生、ありがとうございました。」
「どういたしまして。又近いうちにな。」
ジュリアがスノウに乗ろうとした時、へイエスがジュリアの耳元で「愛してるよ。」と囁き、ジュリアも「わたしもです。」と囁いた。そしてふっと姿が消えた
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、評価、いいね、などいただけますと幸いです。