退学と告白と
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翌朝、ジュリアは朝食後すぐに学園に行った。
へイエスは少し遅れて行き、まずオドネルにジュリアの叔父の状況を訊いた。
ジュリアの叔父は脱税で捕まり、マクレガー家の仮の管理者からも、マクレガー家の親類からも剥奪される。また、脱税をして得た金銭の返却義務も生じたため、管財人立ち会いのもと、叔父たちの財産はおそらく全て失うことになるだろう。叔父は刑務所行き、叔母はマクレガー領にも居られないので、叔母の実家を頼ることになりそうだ。キャシーは魔石使用による魅了という禁呪の大罪を犯したため、終生修道院送りとなった。
へイエスは上司に辞表を提出した。へイエスは良い教師なので引き止められたが、自領に帰らねばならないと言って今期が終わったら退職するということが認められた。
ジュリアは登校するとまず担任のラシュモア先生のところに行き、退学願いを提出した。あと1年で卒業できるのに、と、引き止められたが、王子たちのいる学園で人々の好奇の目もある中での学園生活は楽しいものではないと言うと、先生も納得してくれた。また、今後は叔父がひどい生活をしていた分、その立て直しのため領地に戻るとも報告した。ジュリアはすでに今期の必要な単位も取れているので、明日からもう登校する必要はなくなった。
エヴァたちはジュリアの退学を惜しんで、悲しんでくれたが、領地に遊びに行く口実ができたと言ってくれた。ジュリア、エヴァ、サマンサ、グレイス、仲良しの4人は学生食堂で最後のランチを食べることにした。
食堂で楽しくランチをしていると、遠くに王子と取り巻きたちがいるのが見えた。しかし、彼らは近寄ってこないし、こちらも気づかないふりをした。
「やっぱり退学することにして良かったわ。こういうのが毎日だったら居心地が悪すぎるもの。」と、ジュリア。
「そうよね。ジュリアはちっとも悪くないのに、ひどいわね。」と、エヴァ。
「だいたい、どうして王子が学園やめないのよねえ。」と、サマンサ。
「たぶん好奇の目にさらされるのが罰のひとつでもあるんじゃない?」と、グレイス。
そこへリズがやってきた。
「ジュリアー、いろいろ大変だったわね。もう大丈夫?」
「ありがとうリズ、あなたこそ、大丈夫?」
「私はもう、きれいさっぱり婚約は解消したわ。あちらから魅了されてたのだから自分の責任ではないので婚約を継続してくれないかって言われたんだけど、父が、心に隙きがなきゃ魅了よけがされているのだからかからなかったはずで、そんな男は信用できない、って言ってくれたの。私、はじめのうちは悲しかったけど、だんだんあの人が嫌いになっちゃったから、これでせいせいしたわ。」
「リズは素敵だからもっといい人が現れるわよ。」
「ありがとう!ジュリアはどうなの?」
「私は退学したの。叔父がやった不正の後始末をしなきゃいけないから、領地に戻るわ。」
「そうなの?もう明日から来ないの?」
「ええ、こちらの後始末もしなきゃいけないしね。」
「それは、がっかりする人たちがいるわね。」
リズはそう言うといたずらっぽく笑った。
「それじゃ、私はちょっと行くところがあるので失礼するわね。ジュリア、学園には来なくてもまだしばらくは王都にいるんでしょう?」
「ええ、今月いっぱいくらいはいるつもり。」
「そう、じゃ、もしかしたら、どこかでお会いするかもしれないわね。。」
「そうね、リズ、ごきげんよう。」
「ジュリアもね、ごきげんよう。」
ランチが終わってみんなは授業に行き、ジュリアはそれから街に行くために学園の門を出ようと向かっていた。
「ジュリア嬢!」
ひとりの青年が走り寄ってきた。
誰だっけ?・・・ああ、たしか、生徒会の役員の人だ。
「ジュリア嬢、君が学園をやめると聞いたんだが、本当なのか?」
「はい、領地に帰ろうと思っています。」
「そうか・・・君は殿下との婚約は解消したのか?」
「はい。」
「もしよかったら、僕を君の次の婚約者の候補にしてもらえないだろうか?」
「えっ?」
「実は君のことをずっと前から好きだったのだが、殿下の婚約者だから何も言えずにいたんだ。もしできたら、考えてほしい。」
「あの・・・」
「いきなり言われて驚かせてしまってすまない。考えてくれるだけでいいから。」
「ごめんなさい、私」
「マクレガー君」
「あ、へイエス先生。こんにちは。」
「こんにちは。学園をやめて領地に戻るのだろう?」
「はい。では急いだほうが良いのではないかな?」
「あ、はい。」
「君、マクレガー君はあのようなことがあったすぐあとだ。しばらくそっとしておいてやるのが友人というものだと思うが?」
「そ、そうですね。失礼しました。」
「いえ。ごきげんよう。」
へイエスは物陰にジュリアを誘い、ジュリアを抱きしめた。
「フィル?」
「言っただろう?俺は嫉妬深く重たい男だと。悪かった。だが黙って見ていられなかった。」
「フィル、私、お断りするつもりだったんです。それを言う前にフィルに助けてもらったので、助かりました。驚いたけど、あの人のことはなんとも思ってません。お名前すら知りません。だから、心配しないで。」
「すまなかった。」
「いいえ、きょうは学園でフィルには会えないと思っていたから嬉しいです。」
「そうか。」
「フィル、大好きです。」
「俺もだ、愛してる。」
「あの、今夜、ごはん作ってご一緒してから家に帰っていいですか?」
「嫌だ。」
「あの・・・」
「ずっといてくれないか?」
「荷造りを」
「俺はまだしばらく学園に通わなければならない。だから俺が学園に行ってる時に君の用事をして、夜は朝まで一緒にいてくれないか?」
「よろしいんですか?」
「もちろんだ。俺から頼んでいるんだ。」
「ありがとうございます。嬉しいです!」
ジュリアは嬉しそうににっこり笑った。
「じゃあ、俺は研究室に戻る。」
「はい、ではまた後ほど。」
へイエスは研究室に駆け戻っていった。
ジュリアはそこからまた門に向かって歩いていく。
「ジュリア君。」
「はい。」
「君、きょうで学園やめたんだって?」
「はい。」
「あ、すまない。私は王立博物館の学芸員プレスコットだ。」
「ああ、すみませんでした。はい、私が図書室係の時にいろいろ教えていただきましたよね。その節はお世話になり、ありがとうございました。」
「覚えていてくれたのか。いや、それは嬉しいな。」
ジュリアはにっこり微笑んだ。
「殿下のこと、いろいろ大変だったな。」
「いえ、もう、過ぎたことですので。」
「婚約は解消されたままなのか?元に戻ったのか?」
「解消されたままです。」
「そうか、辛かっただろうな。」
「いえ・・・」
「これからどうするんだ?」
「領地に帰ります。」
「いつ?」
「まだはっきり決めてないんですけど、できるだけ早くと思っています。」
「その、突然だが、今夜食事でもどうだろうか?」
「え?」
「君のことがずっと気になっていて、ずっと見ていたのだが、殿下の婚約者には何も言えずにいた。あんな事があったあとすぐに悪いとは思うのだが、できれば話がしたい。私のことを知ってほしい。」
「すみません、私今夜約束があるんです。」
「そうか、すまなかった。・・・では明日の夜はどうだろう?いや、いつが都合が良いだろうか?」
「あの、それは」
「マクレガー君!」
「あ、オドネル先生。」
「君、きょう退学届を出したんだって?」
「はい。」
「ちょっと講座のことで話があるのだが、今から研究室に来てもらえるか?」
「はい。」
「あ、話しているところだったんだな、失礼した。」
「いえ、大丈夫です。」
ジュリアはそう言うと、プレスコットに向かい、
「せっかくですけれど、いろいろ立て込んでおりまして、申し訳ないのですが、お約束できません。お声をかけていただき、ありがとうございました。」
「いや、忙しいところ、すまなかった。」
「こちらこそ、ごめんなさい。」
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