我慢しないで
お立ち寄りいただきありがとうございます。
「きょうはね、ビーフシチューなんです。」
「おお!俺の好物だ。ありがとう。たくさん盛ってくれ。」
「ふふふ、はい、たくさん召し上がってください。」
「うん、うまい!」
「嬉しいー。」
食後、ジュリアがケーキとお茶を用意して持ってきた。
へイエスはジュリアの前に跪き、
「リア、俺と結婚してくれ。」
なんとも単純明快、そしてなんとも感動的な言葉だ。
「はい!」ジュリアも嬉しそうにニコニコしている。
エメラルドの指輪はジュリアの指にぴったりで、よく似合っている。
ジュリアはへイエスにはめてもらって、それをじっと眺めている。
「これはな、俺の瞳の色なんだ。他の男に盗られないようにという意味だそうだ。」
「そうですか、幸せです。ありがとうございます。」
じゃあ、私はこれを。
ジュリアはそう言って、小箱をへイエスに渡した。
「俺にか?」
「はい。」
「タイピンでも、普通に襟につけてもいいそうです。」
「きれいだな。君の瞳の色だ。」
「はい、店員さんが、私の瞳の色を贈ると、私はあなたしか見ません、っていう意味になるんだって言ってました。」
「そうか、ありがとう。独占欲の強い男には何よりの贈り物だな。」
「リア、おいで。」
「はい。」
ジュリアはへイエスの膝の上に座った。
「これからのことを話したい。」
「はい、私もです。」
「俺は明日、辞表を出すつもりだ。」
「そうですか。じゃあ私は同じ日っていうのもへんに思われるとめんどくさいので、明日は学園に行って、担任のラシュモア先生に退学のことを話して、帰りに街でお買い物します。こちらの使用人のひとたちへのプレゼントを買いたいの。こちらで私を味方してくれてたひとが少しいるんです。叔父たちと一緒になって意地悪だったひとたちのことはあまりどうでもいいんですけど、私をかばってくれてたひとたちには感謝の意味をこめてちょっとしたプレゼントをしたいの。」
「リアは使用人からも虐げられていたのか。」
「過去のことですから。」
「えらいな。」
へイエスはそう言って頬にキスをしてくれた。
「ふふ、ありがとう。」
「叔父上のことは明日の朝オドネルに訊いてみよう。明日は普通に登校するんだな。俺は明日は授業がないので、すこし遅れて出る。学園長に話をするが、たぶん今期はいてくれと言われるだろうな。まああと1ヶ月もないのだが。」
「そうですね。急にやめるわけにもいきませんよね。」
「ああ。それで地図をみたら、君の領地は偶然俺の実家の領地のそばだった。それで、一度俺の家族に紹介させてくれるか?たまにしか会わないが、仲が悪いということでもないのだ。」
「はい、とっても嬉しいです。なんだか、ワクワクします。受け入れていただけるといいな。」
「それは問題ない。たぶん大歓迎だよ。」
「それで、リア。」
「はい。」
「君は結婚式をしたいか?・・・したいよな、たぶん。」
「いいえ、そうでもないです。そんなのよりフィルと一緒にいられるようになるほうが大事です。」
「そうか・・・それでは、俺の実家で、簡単に式を挙げるか?」
「あ、そうですね。実は私には親もきょうだいもいないので、それで結婚式と言ってもあまりピンと来なかったんですけど、フィルのご家族とならいいですね。」
「そうか。ドレスを買わないといかんな。」
「いいえ、母のを着ます。そうしたいんです。」
「お母上のか。それはお母上もお喜びだろう。」
「ふふふ、そうですね。・・・あの、フィル、ひとつ伺いたいことがあるんです。断ってくださって全然構いませんので。」
「なんだ?」
「婿養子になって、私の家を継いでいただけないでしょうか。あの、実際の仕事は私がします。フィルには魔導具屋さんをしていただきたいです。社交もしない方針でいいかなと思うんです。」
「・・・・・・正直言って、俺は逆を考えていたのだが。」
「逆、と言いますと?」
「リアが領主になって、俺がそれを支えようと思っていたのだが。」
「・・・・・・私、フィルの子供を産みたいんです。そして、産んだら育てたいんです。貴族は子供を産んでも自分で育てないひとが多いですけど、私は自分でちゃんと育てたいんです。そうすると、フィルに頼りたいなと思ってしまったの。・・・ごめんなさい。忘れてください。」
「いや・・・そうか・・・そういうことか。・・・・・・わかった、婿養子になる。」
「ほんとですか!」
「ああ、ただ、社交はほとんどしないと思ってくれ。」
「はい、私も社交はしたくありません。」
「では、明日か明後日、私の家族に会ってもらって、話を進めよう。」
「フィル、私のために我慢してませんか?」
「ああ、ひとつだけ、我慢してる。」
「だめ、やめて。私のために我慢しないで。」
「そうか?」
「はい、我慢してほしくないです。絶対。」
「そうか、では・・・抱いていいか?」
「ひぇ?」
「リアが魅力的だから、すごく我慢してるんだぞ。」
「あ、ああ、あの・・・それは・・・その」
急にジュリアが逃げ腰になる。
「嫌か?」
「いえ、その、あの、嫌じゃないんです。子供産むってことはその前になにかする必要があるし。でも・・・」
「でも?」
「私、どうするのか知らないし・・・だから・・・怖い・・・ので」
「そうか。」
「でも、嫌じゃないんです!」
「わかった。リアを我慢させるのは嫌だからな。困らせてしまったな。すまない。」
「違います!私、我慢しません。怖いだけです。だから、あの・・・抱いてください。」
へイエスは苦笑して
「いや、まだいい。そのうちな。」
「フィルの嘘つき。」
「嘘ついてないよ。そのうち、と言っただろう?」
「私・・・フィルに抱かれたいです。」
「ははは、リアこそ嘘つきだぞ。」
へイエスはそういうと、ジュリアの鼻を指でつついた。
「嘘ついてません。ほんとです。」
「・・・・・・ほんとか?」
「・・・・・・は・・・い。」
男の人って、怖い・・・けど、フィルは優しいから大好き。
ジュリアはへイエスの胸に顔を埋めて、
「フィル」
「ん?」
「男の人は怖いと思うけど、フィルはとっても優しくて怖くないわ。フィル、大好き。」
「リア、愛してる。痛い思いをさせてしまったな。許してくれるか?」
「許すだなんて。フィルは私をとっても幸せにしてくれてます。」
「リアこそ俺をすごく幸せにしてくれてるぞ。」
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