第2話 まだ生きたい!
「なぁ、ヒカル…。お前の事、前から気に食わなかったんだよな…!」
「そうそう、ヒカルって、戦闘の時、補助魔法しか使ってないよねぇwロディ達3人は、剣で頑張って命懸けで戦っているのにぃ。補助魔法と言っても、ロディ達の力アップしたように思えないし。補助魔法と言い、サボってたんでしょ?ブツブツと何か唱えるだけな無能なヒカル。」
まさか、幼なじみから”無能”と言われるなんて。急な出来事に頭が真っ白になる。
俺に追い打ちをかけるかのように、ローイが続ける。
「俺たちの動画も編集しかしないくせによ!俺たちが動画を撮っている間、お前は影でコソコソとスマホをイジってるよな?!
本当に無能だな!ヒカルはよぉw」
怒鳴る寸前の声のトーンで詰め寄るローイ。大柄な身体が更に恐怖を感じた。
「違うっ!それは、前撮った動画編集をしてて…」
慌てて、スマホを使っている理由を話す。しかし、食い気味でローイが怒鳴る。
キレているローイがいつ、殴りかかってくるか分からない恐怖から萎縮きてしまう。
「スマホいじってる事には変わりねぇだろ!こっちがどんな思いで撮影してるかも知らずによ!」
俺に詰め寄るローイ。どんどん、声が大きくなっていく。
俺も負けじと声を荒らげる。
「あの!編集には何時間も掛かるからそれで…1日中には終わらなくて、ローイ達が動画撮ってる間にさせてもらってたんだ。」
動画編集には何時間も掛かり、ダンジョンから帰宅後、徹夜しないと1日で終わらない事が多い。なので、ねーちゃんに許可を取り、3人が動画の撮影中に編集をさせてもらう事にしたのだ。
「言い訳、やめなさいよぉ。惨めなだけだからぁw」
更に俺を見下すロディ達。
しかし、悔しいのに言い返せない。言い返したいが、スマホをいじってる事は事実だ。
俺は2人から目を逸らし、歯を食いしばるり、怒りからか体を小刻みに揺らす。
「ローイ♪さっさとやっちゃいましょ!」
「そうだな。クズは早く消した方が良いしな!」
声のトーンが明るくなり、笑顔になる2人。
「えっ…”消す”?」
”消す”というワードに引っかかり、聞き返す。
「そのままの意味よぉw無能くんにはここで死んでもらうの。」
16年間見た事のないくらいに、屈託のない笑みを浮かべるロディとローイ。
本当に俺殺されるのか…?ドッキリなのか、それとも悪い夢?
さっきまで、仲良く話していた2人に殺されるなんて。非現実的な事にいつまで経っても頭の整理がつかない。
それでも、逃げなければいけない気がする。
野生の勘といいか、男の勘が言っているのだ。
「おい、ヒカル、逃げる気か?」
走り出そうとしたが、ローイに腕を強く掴まれる。
諦めずに足を前に出すが、俺の腕よりも何周りも筋肉が付いた太い腕から逃げ出せるはずが無く、全然前へ進まない。
嫌だっ!まだ、死にたくない!そんな感情が脳を埋め尽くす。
今まで育ててくれた母に親孝行するまでは死ねないし、まだやり残した事が何個もある。
「誰か、助け…んぐっ!」
ダメ元で叫ぶが、ロディに口を塞がれ、ガムテープを貼られる。
「助けを求めようとしてもぉー。無駄だよぉ。」
もう、逃げる手段がない。諦めつつもヤケクソで手足でバタつかせる。
「おっと、暴れるんじゃねぇ!」
更に締め付ける力が強くなり、俺の手足が縛り上げられる。
「ローイ、コイツも一応は幼なじみだったし、あんまり痛ぶらないで上げるねぇ♪」
一応って…、俺何かしたのか…?
今までの事を思い返すが、心当たりがひとつもない。
「ふふ、じゃあ始めにぃー♪指の骨と足の骨、腕の骨を全て折りましょう♪」
こんな状況でも笑いながら甘ったるい声を出す彼女に恐怖しか感じない。
ていうか、俺、本当に骨折られるのか?
これはやっぱり、悪い夢なのか?いや、そうであって欲しい。
どうすれば逃げ切れるか…。半分は諦めつつも、逃げ道を考えてしまう。
状況は2対1。いや、力が強いローイが居るから、俺がアイツらを倒して逃げるのは不可能に近い。
なら…アイツらの隙を見て、逃げ出すしかない。
「ローイ、あの場所に連れて行きましょっか。」
「あの場所な…!分かったぜ!」
あの場所と具体的な名前を伏せて、会話する2人。
まさか、高レベルモンスターの住処とかか…?
そんなの嫌だ!放り込まれたら、体の部位を徐々に食いちぎられるに違いない。
ダンジョンで見つかった死体にも無惨に骨だけ残った物や手だけ噛みちぎられてしまった物が多いのだ。
俺は美味しくモンスターに食べられるのか…。
そんな事を考えていると、ローイに担がられる。
「早速、行きましょうか。」
道中、ずっと笑っている2人。そんなに俺を殺すのが楽しみなのだろうか?
俺を殺してもいい事は無いと思うが…。
半分、死を覚悟しつつ、妙に冷静な自分が居る。
しばらく、時間が経ち、
「んぐっ!」
急に投げ出され、床に打ち付けられる俺の身体。
それと同時に俺の視界を奪っていた布や縄が取り払われる。
「ここが今日からぁヒカルのお家ですぅ!」
嫌味たらっしく言うロディ。
もう、歯向かう気力は無くただ、ロディの言葉を聞くことしか出来ない。
そして、目の前に広がる灰色の光景。床は石、目の前には鉄格子が広がっており、薄暗い。ここは
牢屋なのか...?
俺が何したって言うんだよ...。
彼女たちと過ごした楽しい日々が走馬灯のように思い出される。
はぁ…。色々な感情と共に涙が溢れてくる。
「あら、汚ならわしい。」
蔑んだ目で俺を見るロディ。その目は、狂気そのものだった。
「ロディ!やべぇよ!もうこんな時間だ。こんなに長時間居たら、ねーちゃんに怪しまれるぜ?一旦、戻ろうぜ。」
焦りながら、伝えるローイの言葉を受け、時計を確認するロディ。
「そうね、そろそろ戻ろう♪続きはまた明日。それまで、生きてて下さいね、ヒカルくん♡」
指で頬を軽く触り、腰を捻りあざといポーズをするロディ。
「おい!何で俺にこんな事をするんだ?!」
「黙れ、ヒカル。ロディ早く行こうぜ。」
俺の質問を無視し、足早に戻っていく2人。響く足音が段々遠くなっていく。
何でこんな目に遭わないといけないんだ。
いつも、サポートに徹していただけなのに。
むしろ、それが悪かったのか…?
補助魔法の事をブツブツと呟いてるとか言っていたし。
俺たちのパーティは皆で話し合って、役職を決めた。ロディとローイが前衛、ねーちゃんが魔道士。魔道士といっても、回復魔法は少々、補助魔法は全く使えないらしい。
そのため、俺が僧侶をやって欲しいと3人に頼まれたのである。
また、俺はあまり筋力が無かったので僧侶をする事にしたのだ。
いやさっ!俺、頼まれて僧侶やってたし!なのに、あの言い方かよ…!まぁ、俺もやりたかった所はあるけどさ…。呪文を詠唱するのは、俺の憧れの1つだったし!
しかし、あの言い方は納得のいかない所が多い…!
僧侶は、周りの状況を誰よりも把握し、誰に魔力を使えば良いか瞬時に把握しなければならない。
俺だって、頑張っている。本当にムカついてきた…!
はぁ…。俺はもう、何を信じていいんだ。もう、死ぬんだし、そんな事考えても無駄か…。
情緒不安定過ぎて、もう嫌だ…。
1人、天井の上を眺め、ため息を着く。
待てよ、あの2人が戻ってくるまで、まだ時間がある。
まだ、俺生きれるんじゃないか…?
アイツらが戻ってくる、その間に脱出してやる。
今までの俺の努力も知らずに、見下されたままは嫌だ。ぎゃふんと言わせてやる…!
先ずはここから、出る事か…!
お読み頂きありがとうございます!
女体化まで、今週中には書き切る予定ですので、気長にお待ち下さるも幸いです!