大和さんってシスコンだよね
病院で怪我を見てもらった結果は、骨は折れてないが複数の打撲。
兄貴は警察に捕まったらしく、男ともども事情聴取を受けているそうだ。だが、男はオレに暴行を振るったこと、兄貴はオレを助けるために殴ったことであまり罪には問われない様子。
警察署に兄貴を迎えに行く。
「兄貴……」
「おう。怪我は大丈夫か?」
「おう……。でも兄貴、この騒動で兄貴きっとバイト首になるよな」
「だろうな。海の家の人にはばれてるだろうしなー。ま、また違うバイトを見つけりゃいいさ。司は運動できないし喧嘩もできないんだから、逃げてもいいんだぞ。いつでも俺が助けられるわけじゃないからな」
兄貴は優し気な顔を浮かべる。
「ま、でも、無事でよかった。治療費とかはあっちの親からふんだくるから。母さんが。一応母さんにもさっき電話したらものすごくキレてたし相手はご愁傷様って感じ」
「あぁ……」
母さんも元ヤンだからキレたら怖ェんだ。いいところのお嬢様なもんだからなまじっか頭もよかったからインテリヤンキーだったらしい。
母さんは破天荒な女だったって自分で言ってたな。
「とりあえず帰ろう。コタローちゃんは外?」
「ああ」
「乗せてもらおうかな。店長に電話はあとでするし、どうせクビだからまァやめるってだけ言えばいいし」
兄貴はへらへらと笑って帰ろうとしていた。
オレは兄貴の後ろについていく。変態の癖に、オレがつらい時はいつも手を差し伸べてくれる。助けてくれる。優しい兄貴だ。
喧嘩もオレとは違って超強いしな。妹も強いが。
口喧嘩ならオレが一番強いんだけど。
兄貴と一緒に警察署から出る。
リムジンに乗り込むと、みんなすこし気分がどんよりとしていた。
「あ、初めましての子もいるね。俺は司の兄の大和です。妹がお世話になってるね」
「えっ、あ、いや、むしろお世話されてます!」
「どういう返しなのだ……。それで大和さん。大丈夫なのですか? 僕が戦っていればよかったのですが敵わず申し訳ない……」
「仕方ないよ。大の大人に鍛えてない高校生が勝てるわけないから」
「僕ももっと精進する必要がありますね」
「守ろうとしてくれただけでもありがてェよ。ありがとな、岩島」
「……ああ」
岩島は照れ臭そうにそっぽ向いた。
「……岩島くんっていうんだ。岩島くんってもしかして司のこれ?」
と、兄貴は小指を立てた。
「違うわアホ!」
「ならよかった。うちの妹のこれだったらもう俺は正気を保てなくなる」
「大和さんってまじでシスコンだよね」
コタローが兄貴をシスコンといって笑っていた。
まァ、うちの兄貴はシスコンだな。オレもなんとなくわかる。
「ま、いろいろあったけど帰ろうぜ。ああ、ヲタク」
「は、はは、はひっ! なんでありましょう!」
「また新作ができたからイラストを頼みたいんだが……」
「また新作ですと!? いいでしょう! どういう曲か知りたいので試聴をば!」
「帰ったらデータ渡す。また頼むぜ」
「お任せください! ぼうはていP様の頼みとあらばたとえ火の中水の中! 体壊してでも仕上げて見せますぞーーーーー! あ、依頼料はとらないのでご自身の体の治療に専念を……」
「いや、払うよ……。毎回無料で描いてくれるのはありがてェけどさすがに悪ィよ……」
このヲタク、まじで金を受け取ろうとしない。それがマジで困る。オレとしては罪悪感がすごいから受け取ってほしいんだがな……。




