タキロン
オレは手に入れたスキルをいろいろと試してみることにした。
新スキルのターボジェットから。鉄の翼をはためかせ空を飛ぶ。ターボジェットを使用すると、翼が変形し、ジェット機のような翼に変わった。
そして、ものすごく加速する。
「すっげェはえぇ! マッハ超えてんじゃねェの!?」
まるで音速機のコンコルドに乗っているかのようだ。
カナガワ県で使ったが、海を越えてチバに到着したのだった。わずか5分程度で。この速度は長やべェ。バイクいらねェじゃん。
と思ったが、ぷす、ぷすとジェットから黒い煙が出てくる。どうやら結構な時間使いすぎたようでオーバーヒートを起こしたようだった。
使用可能時間は10分。
で、クールタイムが多分必要か。
飛ぶこと自体はもう自由にできるようになった。
鉄の翼はクールタイムなどを必要としないようで、1時間程度空中に滞空することもできるようになった。これはちょっとありがたいな。
距離を取るときは基本空中で、ということにもなる。が、翼は大きいので隠れるのはあまり向いてないというのが難点か。
「よし、いろいろ終わり。あとは事務所に帰るだけだ」
ターボジェットなど大方の検証は終わった。
オレは空を飛びながらトウキョウに帰ろうとすると、なにやら空を飛んでいる人がいる。プレイヤーだった。
魔法世界の住人からスタートしたようで、翼も何も持たず空を飛んでいる。が、見た目がちょっとやばい。
「あれ、君も空を飛べるんだ」
「うっす」
見ていると話しかけられた。
よくいる魔法世界の人のようなのだが、頭に角のようなものが生えている。なぜ角? それデフォルトであるのだろうか。
いや、でも見たことないな。オレのようなアンドロイドで始める人はたまに見かけたが角を生やしたプレイヤーなんていなかった。
「……なんで角生えてるんすか」
「これ? シルシファーからスキルをもらったんだ。そして種族が魔族になった」
角をもった美少女がそう微笑んだ。
「君もでしょ? なんかものすごい機械だもん」
「ああ……まァ」
「ふふ、お仲間。私はタキロン。魔法使いだよ。よろしくね」
「ラピスラズリ。銃を使ってるっす」
「へぇ。同じ遠距離攻撃仲間かな。親近感湧くね」
不思議な女だな。
取り繕ったような笑顔で心にもないことを述べているような気がする。無理して笑っているような気がしなくもない。
オレはそういう嘘が気に食わない。
「なんかあんた辛そうだけどなにかあったのか?」
「えっ」
オレがそう指摘すると、タキロンはちょっとだけ真顔に戻った。が、すぐに笑顔を取り繕っている。
「いや、なんもないよ?」
「ふーん。嘘だろ。なんか辛いって感じの目をしてるぜ」
「えっ、いやいや、そんなことないよ?」
「オレの目は騙せねェよ。オレはそういう取り繕いとか大嫌いなんだよ」
「……そう? じゃあ、ちょっとだけ相談しちゃおっかなぁー」
そういって、タキロンは口を開く。
「私ね、実は結構いいところのお嬢様でね」
話してくれた内容はというと、結構いいところのお嬢様らしい。
厳格なおじい様のもとで家を継ぐために頑張ってきたのだけれど、最近父が養子をとって跡継ぎにするという流れを感じているらしい。それがものすごく嫌……ではないけれど、あまり心いいものでもないらしい。
さすがにその流れを見てストレスがたまり、こうやってゲームをして気を紛らわせてるんだとか。
「ふーん……」
「で、7月に親族全員呼んで跡継ぎを発表するようなこと言ってるんだよね。ちょっとそれもプレッシャーでさ。跡継ぎが私じゃないのはいいんだよ。でも、親族に超怖い人もいてさ。ちょっと怖くて」
「怖いやついんの? とりあえず話してみろよ。意外といいやつかもしれないぜ」
「……そうかな?」
「ああ。ま、頑張れよ。オレからはそれしか言えねェ」
オレは当事者ではないからな。聞いておいてなんだが、それしかアドバイスができん。
「オレはもういくよ。そろそろログアウトして課題やらねェと」
でなきゃ怒られちまうぜ。
オレは急いで事務所に戻り、ログアウトする。
「ふいー」
「司、ちょっと出かけるわよ」
「どこに?」
「おじいちゃんとこ」
「おじいちゃんとこだァ?」
あの厳格な爺さんと会うの嫌なんだけど。絶対ピアスとかガミガミ言われるぜ。




