arcana
結構な数の魔物を討伐し、素材もいい感じに集まってきた。
が、集まったのはいいがオレの残りの弾数が少なくなってきている。外すことはなかったが、結構撃っていたからなァ。
素材を売って弾を買わねェとな。
「オレは素材を……」
と、行こうとすると、隣に男のプレイヤーが立ち並んできたのだった。
「あの、なんすか?」
「あぁ、すまない。君たちがとても美しい戦い方をするものでつい魅入っていたよ」
「はァ」
なんか変な人だな。
「僕はイリオモテ。よろしく」
「ラピスラズリっす」
「ラピスラズリ。いい名前だ。ラピスラズリさん、僕のクランに入るつもりはないかい?」
「クラン? あァ……」
クラン。
それはプレイヤー同士の組織。依頼の共有、素材の共有など、入っていたらお得だということもある。
オレらはまだ始めたてだから作るつもりも入るつもりもねェが。
「オレらはまだ初心者なんで」
「初心者であろうと関係ないよ。君たちは強くなりそうだ。どう? 給料出すよ」
「…………」
金か。
給料という単語に心惹かれている。あの二人にとって金はそこまで重要じゃないが、オレにとっちゃ死活問題となる。
金がなけりゃ弾が買えねェ。弾が買えなきゃオレは戦えねェ。
だがしかし。
「オレはどっちでもいいんすけどあいつらが入んねェならオレは入らねェっすよ」
「わかった。あの二人にも聞いてみるとするよ」
といって、イリオモテは二人に声をかけに向かったのだった。
オレもその後ろについていく。
「イリオモテさん!? え、マジで!?」
「誰なのだ?」
「誰だよ」
「ガンジーはともかく、ラズリは知らないの!? 超絶うまいゲーマーでクランに入るのはこの人が認めてないと無理なんだよ! その人からお誘いって! 入る入る! 入ります!」
「ふぅん。そうなんだ。オレ基本ソロプレイだしゲームのプレイ動画とか見ねェし」
「超絶うまいゲーマー……。ふむ。僕はやめておこう。足を引っ張るだけだと思うからな」
「入らないの!?」
「僕はまだゲームのことをよく知らない初心者だ。足を引っ張るのは僕としても避けたいからね。僕がとてもうまくなったら改めて入らせてくれと頼みに向かうよ」
「えー……。じゃ、じゃあラズリは!?」
「オレ? まー、オレも別にどっちでもいーかなー……」
「じゃ、入ろ!」
と、言うので入ることになった。
イリオモテは笑顔でありがとうと告げてきて、僕の事務所に案内するよと言ってオレらを案内してくれる。
事務所というのは本当に事務所のような雑居ビルの中の一室。
クラン名はarcanaというクラン。
オレは案内され中に入ると、5人くらい人がいる。
「僕たちは少数精鋭であまり人がいないんだけど、みんな強いよ」
「イリオモテ。そっち新入り?」
「そう。強いからスカウトしてきた」
「へぇ。イリオモテが言うんならそうなんだね。二人とも可愛いねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「俺はヴァルキリー! よろしくね!」
軽薄そうな男性はヴァルキリーっつうらしい。
オレとあわなさそー。なんて心の中で思っていた。オレはあまり人とかかわるのが得意じゃねェし、浮きまくるだろうなァ。
まァ、給料は出るんだからそれでもいいんだが。
オレは一通り見渡していると……。
「なァ、あれ小野寺じゃね」
「あ、ホントだ」
「ふぇあっ!? え、た、巽さん!?」
「よぅ」
小野寺と呼ぶ女はオレのクラスの奴だ。
小野寺 拓海。休み時間、一人でノートに落書きをしてるのをよく見かける。オレが怖いのか近くを通るたびに避けられている感じがする。
小野寺もやってたんだな。
「知り合いかい?」
「同級生っすね」
「へぇ。世界って狭いねぇ」
「りり、リーダー! あ、ああ、あの! この二人をいれるんですか!?」
「んだよ。オレが入っちゃまずいのか?」
「いえっ! そんなことは滅相もございません!」
そういって、小野寺はイリオモテとこそこそ話を始めていた。
オレは聞き耳を立ててみる。
「リーダー……。あの人はうちのクラスじゃ不良って恐れられてて怖いんですよぅ……」
「そうなんだ……」
あァ、やっぱ怖がられてんのか。
見た目が見た目だししょうがねェんだけどな。釣り目だし、ピアスの穴も開いて髪も黒に染めてるしな。
「いやいや、ラズリは怖くないよ? こんな見た目だけど優しいよ?」
「優しい人はピアスなんてあけないんですってぇ!」
「いや、ピアスはファッションだろ」
「聞かれてたっ!? す、すいませぇん!」
「いや、別にいいんだけどよ……。そんなにオレって怖い?」
「え、あ、いや……」
「初見の人はそうだよねぇ。こいつ、親が元ヤンだからさ、その顔引き継いでんの。でもこいつ喧嘩なんてできないほど運動神経ないから」
「えっ」
「自慢じゃねェけど100m走は25秒かかるぜ」
「本当に自慢じゃないね」
イリオモテからのツッコミがくる。
喧嘩なんてできないってのが意外だったのかものすごく目を真ん丸としている。
「お前、よく見たら可愛いな」
「か、かわっ!?」
よく見てこなかったが目を真ん丸くしている姿がちょっと小動物みたいで可愛いな。
「なぁ、悪いやつではないだろう?」
「そ、そうですね。私が勝手に判断してただけでした……。申し訳ない……」
「いいよ。誤解されんのは慣れてる。この前も偶然通りかかっただけの喧嘩の現場に居合わせたら喧嘩したと思われてなァ……」
オレはなんでこんな強面なんだろうか。
元ヤンの両親の血筋怖え……。
「まぁ、とりあえずようこそ。クランarcanaへ。歓迎するよ」
「うす」
「頑張りまーす!」
「ノルマとかはないけど……。楽しんでやろうね。あと、新入りにはタロットカードの役職を与えてるんだ。このオータクンは役職は隠者だ」
「そんなことするんすか」
「クラン名がそうだからね。さ、タロットカードを引いて。すでに決まってる役職のは入ってないからさ」
「うす」
オレはタロットカードを一枚引いてみる。
描いてあった役職は。
「悪魔……」
「私は力だ」
「じゃ、役職は悪魔と力だ」
なんか納得いかねェ。