プロローグ
オレの根源は音楽から始まった。
小さいころに動画投稿サイトで聴いた音楽。それがオレの世界を変えた。オレをデジタルに染めていく、オレを電子の沼にはめていく音楽と出会った。
オレはヘッドホンをかける。ヘッドホンからは音楽が鳴り響く。
「っし、気になるところもねェ。あとはイラストか……」
学校のとある教室で、オレはノートパソコンを開き、動画投稿サイトにオレが作ったボカロ曲を聴いていた。これでもオレは有名である。
ぼうはていPという名前で活動しており、ヴォカロ界隈では新進気鋭の大型新人として有名となり、アニメのOP、EDの作曲もやったことがある。
オレの音楽は、世界に通じるのだ。
「はーっはっは! オレ様最高だぜェい! また最高すぎる音楽を作っちまった!」
「失礼する!」
突然、借りていた教室の扉が勢いよく開かれた。
「またお前か巽くん! パソコンの持ち込みは校則違反だ! それに、髪を染めている、学校にピアスをつけてくるなど言語道断!」
と、がなるこの男は岩島 貫徹。風紀委員を務めている正義漢だ。結構口うるさいやつと周りからは言われてるが……。
オレみたいな不良にも怖がらず注意するその胆力は称賛している。
「まァいいじゃねえか。やってんのは放課後だしよ。問題ねェだろ」
「だとしてもピアスは言い訳できないぞ! これ、先生から預かってきたのだ。返す」
「おう、サンキュ」
オレは没収されたピアスを受け取った。
普段からつけてるから外すの忘れんだよな。結構校則が緩いけどピアスなどはダメだって言われるのが不思議だ。ピアスだってファッションなんだがな。
まぁ、ルールを破ったオレにも悪いところはある。恨むなんてことはしねェけど。
「それで……放課後ここでなにをしていたのだ」
「なにって作った音楽の手直ししてたんだよ。今日、コタローに呼び出されてな」
「紫電くんに?」
「ああ。だから待ってんの」
「そうか。理由が分かった。それで……いい音楽はできたのか?」
「モチのロンよ! またミリオン再生行っちまうぜこりゃァ」
オレの音楽は常に最高だ。
岩島と話しているとまた扉が開かれる。黒いロングヘアの女が入ってきた。こいつがコタロー。
本名は紫電 小太郎。オレらが通ってる学園の理事長の孫娘であり、結構えらいところのご令嬢。オレとは幼馴染のような関係だ。
「つかさん、お待たせー」
「おせェよ」
「貫徹くんもいるんだ」
「いては悪いだろうか? すまない、邪魔した」
「いや、いいよ。この際だから貫徹くんも誘おうか」
「誘う?」
「これ」
と、カバンから取り出してきたのはつい先日発売されたゲームの”Parallel X Online From Japan"というゲーム。
オレはそのゲームソフトを受け取った。
「うお、マジか! よく手に入ったな二つも! オレこの抽選販売落ちたんだよ!」
「家の力で取り置きしてもらったんだよ。貫徹くんもやる?」
「学校にゲームソフトを持ってくるなど校則違反だろう」
「いらない?」
「……やらせてもらう。が、こういうのはやったことがないのだ」
「昔からそういうの禁止されてたんだっけ」
「ああ。僕の家はとても厳しくてな。ゲームをすると頭が悪くなるという考えだったのだ。僕は昔からずっとゲームを買ってもらえる子が羨ましかった」
「あー、いるよなそんな親」
前時代の考え方だ。
ゲームをしたら頭が悪くなるなんてことはねェ。
「やれるの? 見つかったら没収されるんじゃない?」
「僕は下宿生活だから問題はない。もとより、そろそろ巽くんにゲームのことを相談してみるつもりだったのだ」
「そうなんだ」
「これは初心者の僕でもやれるだろうか」
「やれるぜ。とりあえずログインしたら最初に立っているところから動くんじゃねェぞ。オレらが来るまで待てよ」
「わかった。では、僕はさっそくかえってプレイするとする」
「おう。オレらも帰るか」
「そうだねぇ。早くやりたいしね」
早くやりたいという心が先導している。
ああ、楽しみだ。