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一章 だからお願いこの手を掴んで(3)

 集落に戻って最初に感じたのは、違和感だった。何か違う。それは雰囲気だったり、建てられている家の造形だったり、見張り櫓に人がいないことだったり――狭い集落である故に余所者は一目でわかる。だが、今は道行く全ての人に見覚えがなかった。

 一瞬、帰る場所を間違えたのかとさえ思った。

 ここが間違いなく自分の故郷フィロスだと確信し、しかし自分の知っているフィロスではないことを悟ったのは、自身の家に戻った時だった。

 集落からも少し離れた場所に位置する家は、大人数の兄弟が共に暮らすには狭かった。雨漏りする屋根。三日に一度は外れてその度に修理していた戸。おんぼろの小屋だったことは認めよう。しかし、だ。数刻で跡形も無く消え去るほどやわな建物ではなかったはずだ。

 ただの空き地となっていた小屋跡地に、エミリオは声も無く立ち尽くした。隅に石が建てられているのを見つけた時には思わず笑い出しそうになった。実際には、口元が引きつって、乾いた笑いしか出てこなかったが。

 墓石よろしく建てられた石には、エミリオ=フィロスと刻まれていた。

 冗談にしては大掛かりだし、悪質だ。もしやと思い、地面を掘り返してみれば案の定、箱に納められ、丁寧に布にくるまれた弓と矢筒。釣り道具一式が顔を出した。死者に対する扱いだ。完全に弔われている。死んだことになっている。短時間、行方不明になっただけで。どれだけ気が短いのだ、あいつらは。

 不意に、人の気配を感じてエミリオは振り向いた。

「そこで何をやっているの?」

 険を含んだ物言い。片手には何のつもりか花を携えている女性。皺と白髪も増えて随分印象が変わっていたが、面影は十分以上にあった。

「ベリアおばさん」

 名を呼べば、女性は眼を見開いた。

「あなた……」

「何があったんですか? クロワ達は?」

 エミリオは一歩、歩み寄った。女性――ベリアは三歩、後ろへ下がった。信じられないものを見るかのようにベリアは首を横に振った。

「……誰?」

「冗談はやめてくださいよ。エミリオです」

「やめて!」

 かん高い悲鳴にエミリオは足を止めた。自分を見るベリアの顔に浮かぶのは、紛れもない恐怖だった。

「海の魔物ね。私をたぶらかす気? 七年前のあの子の姿で現れるなんて……っ!」

 今度はエミリオが驚く番だった。その隙にベリアは脱兎の如く逃げ出した。小さくなっていく背を視界に入れながら、エミリオはその場から一歩も動くことができなかった。

「七年、前……?」

 わけがわからない。


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