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3 転生したらパン屋さんだった③

よろしくお願いします。

 ミシェルさんは久しぶりに会うドニに恥ずかしそうな笑顔を向けていた。可愛いミシェルさん。


 でも私はドニの記憶から彼が自分の気持ちに素直になれず、気の利いたことも言えずにいたことを知っていたので、ここは前世で女だった私が一肌脱がねばと頑張ることにしたのだった。


 まず迎えに行く前に花束を準備。大きいと持ち歩くのに邪魔だし目立って恥ずかしいので、小さいのがポイント。でもリボンはさり気なくミシェルさんの瞳の色に合わせて緑にしておいた。


 そしてできるだけ自分も嬉しそうな笑顔を見せて気持ちを伝えること、歩く時は腕を差し出して所謂エスコートの状態を取り、つかまってもらうこと、を心掛けた。


「わぁ、可愛いお花、ドニ、ありがとう。とっても嬉しい」


「君のほうが可愛いよ、ミシェル。今日は一緒に出かけてくれてありがとう。いつもは照れてうまく話せなかったけど、今日は頑張るつもり。さ、行こう。危ないから僕の腕に掴まって」


歯の浮くような台詞だが、ミシェルは嬉しそうだったし、素直に腕に手を乗せてくれた。


 公園の花壇や噴水を見ながらおしゃべりを楽しみ、流行りの服が見られるお店のショーウィンドウを見て歩く。彼女が働いているお店の話もたくさん聞かせてもらった。頑張って働いている彼女がキラキラして見えた。


 最後は予約しておいたカフェで簡単な夕食をとる。ミシェルさんが好きな食べ物や食べる量がわからないのでプレートに何品か乗っているセットと飲み物を予約しておいた。


「このカフェ、来てみたかったの」


「一皿にいろいろ乗っているから、好きなものがあったら別にまた頼むといいよ」


「そんなこともできるのね。あら、このキッシュ美味しいわ!」


「じゃあ別な種類を頼んでみようか」


「でもお腹がいっぱいになってしまいそうよ」


「ああ、デザートがあるはずだから確かに多いかも…でもそれならお土産にすればいいよ。僕もお店の商品の参考になりそうだから食べてみたいし」


 会話も弾んでとても楽しいデートになった。最後に出された紅茶を飲んで、お店を出ると外はもう暗く、空には星が煌めいていた。見上げながらミシェルに星祭りでのことを伝える。


「ミシェル、星祭りの時に手を繋いでくれただろう?僕はとても嬉しかったんだ。今日もこうして二人で過ごせて、本当に幸せだよ。そして…これからもこうして君と一緒にいろんな話ができたらな、って思う」


「ドニ…」


「これまで、忙しくてなかなか会えなかったけど、これからはもう少しお店も工夫して上手くやっていけるように頑張るつもり。だから、その…いつか、僕と結婚してくれる?」


「ドニ!」


 ミシェルが胸に飛び込んできた。私の心は温かくなり、早鐘のように打つ。おそらくドニが喜んでいるんだ。


「ミシェル、愛してる」


「私もよ」


 初めて唇にキスして、額と額を合わせてため息をついて、手を握って、ゆっくりとミシェルを家まで送った。正式なプロポーズのためにお父さんに会いに行くことを伝え、彼女が家に入るまで見送ってから、走り出したいのを我慢して家まで早足で帰った。


 家に帰ると、嬉しさがこみ上げてきて堪らなかった。自分がドニになったような気持ちだった。祝杯をあげようとワインを開ける。そして、ちょっと飲みすぎて…目が覚めるとすごい二日酔いだった。


 こんなにもツライのにパンを焼きたいドニの身体はフラフラしながらも店に行き、頭を押さえながら厨房に入った。すると、ガランとした部屋に長机、その向こうには、前世の役所で面接をしてくれた課長さんが座っている。長机に向かい合うように椅子が置いてある。面接会場?


「え?あれ?」


振り向くとドアはない。


「えー…と?」


「まあ、掛けなさい」


「…はい?」


 状況はわからないが二日酔いでフラフラしていることもあり、言われるまま座る。と、座った感じで自分が元の女性の身体に戻っていることがわかった。もう、どうなっているのか。


「お疲れ様でした、ここでの仕事はこれで終了です。初仕事の割にはなかなか良かったですよ」


「…あの、ちょっと、すみません…」


 わけがわからないことをさも当然のように言われた上に二日酔いや身体の変化で混乱がピークに達し、立ち上がって部屋の隅にあったゴミ箱に盛大にもどした。


「…ず、ずみません…」


もう一度涙目で謝ると、課長さんは


「いいんだ、大丈夫か?」


と先程よりだいぶくだけた調子で気遣ってくれた。そして彼がヒョイと手を振るとゴミ箱が消えた。


「…」


「ああ、必要ないから片付けた。水は飲む?」


手にはコップに入った水が現れていた。私は言葉もない。


「あー、じゃあ椅子へ」


「…はい」


 転生した時以上の衝撃を受けながらも断ることもできず、言われるまま座る。課長さんも長机の向こうに座って、組んだ手の上に顎をのせながら話し始めた。

お読みくださり、ありがとうございました。

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