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2 転生したらパン屋さんだった②

主人公、異世界で馴染んできたようです。

 ミシェルさんは近所の洋装店で働く娘で、実家は雑貨屋だ。金の髪に緑の瞳が麗しい。洋装店で働きながら刺繍や裁縫の腕を磨き、将来的には店の品揃えに生かしていきたいと考えているような勤勉な娘なので、パン屋を閉めた後の夕方から二人で会うなんてことは許されない。


 そのため彼女とドニは付き合って半年たつのに、2ヶ月前の星祭りの夜に一度だけデートして手をつなぎ、頬にキスをしただけの関係…。


 ここで私は大いに呆れた。だって、ドニ、忙しくてデートできないって、だったらもう1人働き手を探して雇えば良かったよね。それくらいの収入はあるし、店も自分のだし、なんなら店番と職人と二人雇っても十分やっていける。なのに何故1人で頑張っていたのか…


 これまでの職場を思い出すと、徐々に仕事が増えて忙しくなって、なんとなく自分の頑張りでなんとかしているうちに自分が頑張ればなんとかなる、と思い込んじゃったんだろうなと予想はつくが…それにしても、だ。


 私はドニが気の毒になって、なんとかこの状況を打破すべく頑張ることにした。


 まずはミシェルをデートに誘わねば。


 大体忙しくてって言っても午後早くにパンが売り切れるんだから、店の片付けくらいチャッチャとすればいいものを、ダラダラやってるから時間がなくなる。それに、夜に外出できないというのだって、押し切れば案外いけるのではないのか?と甚だ疑問だった。


 あれ、何の話だったか…ああ、そうだ、生活の改善についてだった。本当に掃除だけはすぐに外部委託したいところだけれど、それにしてもどれくらい時短できるかを確認してからのほうが募集もしやすかろうと考えた。というわけで本日は店を回しながら片付けにどれくらいかかるかの時間計測、用意スタートだ。


 厨房で1日分のパンを焼いた後はバットや台、布巾なんかをきれいにする。これはなるべく早くしたほうが汚れが落としやすい。掃除の後はパンを売って、店を閉めたらパンを並べていたカゴ、値段表、トングはきれいに拭いて同じ物をまとめてバックヤードの棚にしまう。


 棚はレシピノートや注文票や領収書がゴチャゴチャと詰め込まれていたので昨日のうちに種別に分けて机の引き出しにしまっておいた。冷めたオーブンも拭き上げる。パンのカゴが並んでいたお店の棚も上から順番に拭いていき、最後に床をきれいに磨く。


 そして売上の計算をして、ああ、これは誰か片付けと店番の二役で1人をで雇うのが正解だとはっきりした。パンを焼いてお店に出した後、厨房を片付けるまで番をする人がいないのでお店が開けられない。そしてお店の開店を優先させると厨房の汚れがこびりつく。ドニはパン職人なのだから、やはり厨房の管理は自分ですべきだろう。用具類をきちんと整えることは重要だ。


 ヨシ、と今日の動きを元に求人票を作る。お願いしたい仕事は…焼けたパンをお店に並べて売ること、閉店したら掃除をすること、最後に売上をまとめてドニに渡すこと。難しい計算はできなくても、パンの数ごとの料金表があれば仕事になる。最後の売上の計算はドニがすればいい。


 これならドニは店番をしなくてもいいのでその間にもパンを焼くことができる。焼き立てを2回出す、または、初回の丸パンを出した後は別なパンを作って売ることもできるだろう。惣菜パン…は無理でも、オレンジピールやジャムを練り込んだりチョコをかけたりしたパンが作れたら売上も増えるのではないか。


 自分で食べてみたいパンのレシピ…と言っても完成形をちょこっと絵で描いたくらいだが、を、1日のスケジュールと共に考えてレシピノートにまとめておいた。


 職人を雇うかどうかは店番を増やしてからにしようと考え、取りあえず求人票を店の外から見えるように貼っておいた。スケジュールも厨房に見えるように貼っておく。字はなぜか読んだり書いたりできたので、これが転生した私に与えられた能力なのかもしれない、と思った。


 次の日のお昼すぎに、早速働きたいという人が現れたので簡単な面接をした。子どもが大きくなって騎士団に入ったので家事をする時間が減ったというネリーさんという人だった。


 ありがたいことに計算も簡単なものなら問題なくできるということで、すぐに採用を決めた。丁度いいので、その後の店番と片付けなんかを一緒にして仕事を覚えてもらった。明日からよろしくお願いします、と挨拶を終えて次の日の仕込みに取り掛かれるようになったのは、いつもよりも1時間早かった。


 整理整頓と気合でこの分なら明日はいつもよりも2時間早まるな、と見込んでガッツポーズを取った。気分もいいし、家の方もちょっと片付けた。


 家にもあったレシピ類はノートに貼ったり紙ばさみで綴じたりして、お店のものとまとめておいた。クローゼットの中のどうあっても似合わなそうな服は教会に持って行くために畳んでまとめたり、リネン類を洗って干したり…すっきりしたので夜もよく眠れた。


 次の日からは本当にラクになった。ネリーさんは働き者で感じがいい人なので、実はパンの売れ行きもドニが自分で売っていた時よりもよくなった。


 ネリーさんは自分が家で作っていたパンを使った料理やサンドのレシピをお客さんに教えてくれるので、やってみようかしらと1、2個多めにパンを買うようになった人がいるのだ。口コミってすごい。作り方は聞いてメモしたので店内に貼るか何かしておこう。季節ごとに替えるのもいいかもしれない。


 ドニ(私)も時間があるので焼けるパンの数が増えた。やっぱり経営って工夫が必要だな、と倍増した売上を計算しながら思った。


 こうして、身も心もラクになり、時間もできてきたので、いよいよミシェルさんをデートに誘うことにした。中身が私なのでなんとなく申し訳ない気もしたが、ずっとここで暮らすことになるのだとしたらやっぱり結婚したい。


 最初は仕事を減らして雇われになりたいなんてことも考えたけど、みんなに望まれてパンを作っていることはドニだけでなく私の喜びになりつつあったし、もっと必要とされたいとも思うようになったし、何よりミシェルさんのことを考えると心がギュッとして、その…男性としても昂ってしまうのだ。多分ドニの気持ちが身体に影響を与えているのだろう。まだ頬にキスしかしたことないのに困ったやつだと思いながら、ミシェルさんを迎えに行った。

お読みくださりどうもありがとうございました。

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