8話 クレール視点、マジックバッグの複製、悪魔の矜持
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さて、貰ったのはいいんだけど、どうしよう、このマジックバッグもどき。とりあえず父さんに確認を取ろう。城を後に魔界に飛んだ。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。父さん、商会長いる?」
「会長室に御出でです」
「分かった、ありがとう」
どうしたものか。天界はどうでもいいとして、まさか地界の人間に技術で負けているとは思わなかった。武器は完全に勝っている、そう思ったが、これは別だ。
マジックバッグを作ろうとすらしてなかったんじゃないだろうか。そんな話は聞いたことがない。しかも普通の人間が持っているようなものなのだ。普及している可能性すらある。
「父さんただいま」
「おかえり、どうだった? 何かいいものはあったかい?」
「ええ、ゴブリンの死体を大量にとビッグファンクボアを1体貰ってきたわ。買い取ってくれるわよね?」
「おお、そんなにか。この間の魔石も凄いと思ったが、ゴブリンが大量にか。これでまた薬が売れるな。仕事も与えていることだし、買い手は幾らでもつくぞ」
「それでなんだけど、これを見てどう思う?」
満を持してマジックバッグもどきを見せる。色々と観察しているようだが、落胆したような顔を見せた。言いたいことは解るのよね。でもそこじゃないのよ。
「これは不完全なマジックバッグだよ。これじゃあ売り物にならないよ」
「違うのよ。……これ、人間が作ったものじゃないかって思ったのよ」
「人間が作った? マジックバッグを?」
「ええ、ダンジョンで落ちたにしては性能が悪すぎると思わない? なら人間が作ったと考える方が自然だと思うわ」
「……人間の技術を馬鹿にしたことはあるが、まさかこんなものを作れると?」
「ええ、ゴブリンからでも存在力を高める薬は作れる。それを人間は知らない。でも人間の方が進んでいるものもある可能性は無い?」
「……無いとは言えない。マジックバッグの再現か。まだ不完全だが、大量にあると思ったわけだね?」
「ええ、装備も確認したけど、魔界産の方が質が良かったわ。という事はそれなりの金額でこれが売られているという事になるのよ」
「地界の物価は解るのかい?」
「いいえ、解らないわ。だからこれは憶測。でも最低でも5つの通貨は見た。魔界と同じだと考えても10日程しか暮らせない程度のお金しか常に持っていない者でも買えるというのが凄いと思わない?」
「凄いだろうねえ。安く、マジックバッグの様な物が手に入るんなら、薬屋の薬の価格がもっと落ちることになる。例えば騎士級が買える物だとしたら……爆発的に売れるものだよ!」
「研究者に当ては無いかしら? 人間に負けている可能性があるのよ? 研究職も発破を掛けてやらないといけないわ」
「人間に負けているなんて考えたくも無いだろうね。同種で争うような愚か者に負けているのは気に入らない者が殆どだと思うよ」
「そうよね。特に古い悪魔ほどそうかもしれないわね。これの研究に心血を注いでくれるんじゃないかしら?」
「そうだね。……大悪魔様に伺いを立てよう。大丈夫、人間に出来て、悪魔にできない訳がないよ」
「そうよね。未だに世界を1つにできない者たちとは違うわ」
「誰か! 誰か来てくれ!」
「お呼びでしょうか、旦那様」
「大悪魔様に伺いを立てる。先触れを出すからそれの準備だ。大至急で頼む」
「承知しました」
「人間には負けてあげないわよね?」
「当然だ。卑しいものに負けていてはいけないよ」
「それで、地界と取引をしている商会を知らないかしら? 通貨の価値も調べておきたいのよ」
「それならドルレアン商会に行ってみなさい。あそこならば取引していてもおかしくない」
「このマジックバッグは借りていくわよ。まだ売ったわけじゃないもの」
「ああ、ドルレアンにも見て貰ってきなさい。向こうの商会の方が大きい。何か知っていることは有るはずだ」
「車を借りるわよ。大悪魔様に伺いを立てるのは明日以降になるでしょ?」
「そう……だな。許可する。誰かに出して貰いなさい」
車といってもそんな大層なものでもない。動力は魔物の馬、ランドホースだし、箱に車軸を通してあるだけの簡素なもの。しかし、揺れない様に板ばねも仕込まれているし、スプリングも搭載している。ベアリングもばっちりだ。シートもゆったりとしているし、乗り心地は悪くない。
ともかく増し増しで作ったのがこの車なのよね。金を持っている者は大体これに乗る決まりみたいなものがある。ぶつかったら、ぶつかった方が悪い。力こそ全ての魔界らしい仕様ね。
それでも速度は余り出さない。そう国と契約しているから。余程の事でない限り、爵位を下げてまで速度は出さない。……一応魔界は共和制なのよね。
魔界共和国とでも言えば良いのか。爵位が皇帝の者たちが集い、物事を決めている。大体は意見が割れるのだが、3分の2の賛成で制度が決められる。半数だと揉め事が大きくなる可能性があるから3分の2なのだ。
広い魔界を全て1人の大悪魔が統べた方がいいと言った時代もあったのだが、大悪魔は世襲できないため、共和制に行きついた。ただ、皇帝でも力の差はあるので、皇帝同士は互角という訳にはいかない。
それでも纏まるのは、竜災害のせいだ。定期的に地界から世界を飛び越えてくる竜の災害に備えて世界が1つに纏まったのだ。龍災害はもっとひどいことになるが、その時は大悪魔総勢で何とかするのだ。
死んだ者も多いが、そこは実力主義の悪魔社会、しょうがないねで済んでしまう。ただし、悪魔や小悪魔を守護するものとして大悪魔は力を揮うのだ。暴れたいだけの者も若干名いるにはいるが。
そんな皇帝級の大悪魔を5人も輩出しているのが、今から行くドルレアン商会だ。最古の商会にして最大の大商会だ。ここに訪れる。気持ちも引き締まるものだ。
知っていて放置しているのか、真似できぬから放置しているのか、それとも知らないのか。それは解らない。隠していてもおかしくはない。別に契約には違反しないから。
隠し事を無しにしろとはできない。薬にしたって武具にしたってそう。秘伝にするものも多くある。それはしょうがないことだ。
上が隠していたならばしょうがないことなのだ。まだ再現できていないという事だから。しかし、知らないのは不味い。人間に遅れを取っていることになる。これは魔族の矜持に反する。
悪魔の矜持、これは魔界では絶対である。どの世界よりも発展し、力を持つこと。純粋な悪魔でも、ダークエルフでも、ダークドワーフでも悪魔の矜持は絶対だ。これが魔界のルールだ。
天界よりは発展している自負はある。天界は時代に取り残された最古の文明のまま生きている感じがするのよね。だから力以外は負けていない。
大天使の力は凄まじい。負けるとは言わないが、勝てるとも言えない。天使は信仰によって強くなるのだが、魔界では誰も天使を信仰してたりはしない。
信仰しているのは人間と天使だ。信仰対象が大天使となり、さらに信仰を集めていく。人と天使が増えればドンドン強くなるのが大天使だ。上限は知らない。
地界よりは力が強いことは解っている。存在力を高めるには薬を使えば楽なのに、人間は薬の作り方を知らない。だから文明的にも劣っていると思っていた。このマジックバッグもどきを知るまでは。
もしかしたら、地界の方が文明が発展している可能性も出てきた。それは由々しき事態だ。悪魔の矜持に関わってくる。これでは魔界はどっちつかずになってしまう。
力は天使と互角、技術は人間に劣る。これでは悪魔の矜持があったものではない。しかし、今はそうなってしまっている。確認せねばなるまい。
「着きました、お嬢様。どうぞ」
「ええ、行くわよ」
ドルレアン商会の門を開ける。大きな作りだ。古き良き建物だ。新興商会のウィルソン商会では出せぬ味だ。しかし、胸を張る。今日は別に交渉に来た訳でもない。確認に来ただけなのだ。
人間の通貨の確認。そのついでにマジックバッグもどきの件を聞くだけだ。話のメインは逆転するのは解っている。建前は必要なのだ。
「ご用件は何でしょうか」
「商会長のご予定は空いているかしら? 地界について聞きたいことがございます」
「ご予約は取り付けていらっしゃいますでしょうか」
「いいえ、急に来たのよ。商会長が空いてなければ話の解る重役でも構わないわ」
「承知いたしました。少々お待ちください」
そう、急に来たのだ。予定が空いてなくてもそこはしょうがない。引きずりだすまでだ。重役では荷が重い話をしようとしているのだ。最初から会えるなどとは思ってもいない。
「商会長がお会いになるそうです。どうぞ、こちらに」
……あっさりと通されたわね。何でかしら? てっきり会わないものだとばかり思っていたのだけど、まあいいわね。好都合と思いましょう。
「どうぞご令嬢。座ってください」
「ありがとう。突然の来訪にもかかわらず、目通り出来て嬉しいわ」
「とんでもない。共に魔界を支える商会の身、龍の使たるご令嬢を無碍にはしませんな」
「あら、情報が早いのね」
「情報とは流れてくるものではございませんな。流れを作ってこそですので」
……成る程、うちの商会に内通しているものがいると。しかも堂々と言ったところから、重要なポストに就いているものね。動かしたくても動かせない位置にまで入り込まれていると。恐らく最初からね。流石ね。
「参考にさせていただくわ。今日は折り入って頼みごとをしに来たんですの」
「何なりと、地界の情報でしょうかな?」
「ええ、仕える主人が地界に住まわれているもので、少しでも情報をとお願いしに来たのです」
「それは眷属として当然の配慮ですな。御見それします」
眷属になったところまでバレているのね。本当に誰なのかしら。かなり限られてくるけれど……。今回は見逃しましょう。身内で足の引っ張り合いをしている場合では無くなってしまったから。
「ありがとう。話というのは地界での通貨についてですわ。それについて教えて下さらない?」
「いいでしょう。では、得た通貨を見せていただけますか?」
「ええ、これなのだけれど」
「拝見します。……ふむ、これはマリノですな。アンベマリノ王国の物ですな。土地はどのような?」
「そうね、山脈に位置しているわ。山の中腹辺りにビッグファングボアが出るところなのだけど、ご存じ?」
「そうなると、飛竜山脈でしょう。アンベマリノ王国の領内でしょうな」
「飛竜山脈……やはり飛竜が居るのね」
「餌が有りますからな。確定はできませんが、高確率で飛竜山脈でしょう」
「そう、ありがとう。それで、マリノという通貨、それはどの程度の価値があるものなのかしら?」
「これは銀板。下から6番目の通貨ですな。下から鉄貨、鉄板、銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板、白金貨、白金板、ミスリル貨、ミスリル板、オリハルコン貨、オリハルコン板となりますな」
「成る程、魔界と同じなのね。枚数も10枚で1枚になるのかしら?」
「その通りですな。しかしながら、魔界の通貨は地界では使用不可ですな。両替もやっておりませんな」
「両替とは?」
「通貨の名前が違うと価値も違うのですな。例えばこの銀板。10万マリノではありますが、隣の国、ブロンリックに持っていけば10万1000リックとなりますな。銀板1枚と銅板1枚になりますな。今の相場だとそのようになりますな」
「相場とは?」
「通貨の持つ価値ですな。同じ銀板でも銀の量が違う訳ですな。その銀の量を勘案して算出されているのが相場ですな。早ければ3日に一度、遅くとも1年に1度は相場が変わりますな」
「成る程、通貨を沢山作りたいから混ぜ物をする。だからその通貨の価値が減る。それが相場ね。それで、相場通りに通貨を交換することを両替と言うのね」
「その通りですな。しかしながらその辺りは詳しくなくとも大丈夫でしょう。基本的にはその国でその通貨を使えば問題なしですな」
「……相場の読みでも一儲け出来そうね」
「その通りですな。しかしながら、それには手を出さぬ方がよろしいですな。所詮は地界の通貨、魔界の通貨には換えられないのですな」
「成る程……確かにそのとおりね。それに古貨については相場が違うと見たわ」
「流石流石。その通りですな。ですからやめておいた方が身のためですな」
「わかったわ。で、その銀板で地界ではどの程度生活できるの?」
「地界の物価は安いのですな。家持ちの大人であれば30日は生活出来るのですな。宿暮らしでも宿を選べば10日は余裕ですな」
「そんなに違うのね。……それで、それは大金と言えるのかしら?」
「小銭ですな。恐らくは冒険者と呼ばれる者たちから奪ったと推察出来るのですな。飛竜山脈に挑む冒険者にとっては小銭もいい所。飛竜を狩れればミスリル板で取引されますな。ビッグファングボアでも金板クラスになるのですな」
「安さと高さが入り混じっているのね。地界の価値はどうなっているのかしら」
「食料品なんかは魔界よりも安いのですな。その代わり、装備品になると魔界よりも高いのですな。品質が低いにも関わらず」
「ええ、それは確認済みよ。でも悪魔の矜持に関わるものなの。これにはしっかりと答えて頂戴。マジックバックについて何処まで知っているの?」
「……マジックバッグはダンジョンから極稀に取れるものですな。それ以上でもそれ以下でもないですな」
「今回、ご主人が倒した冒険者とやらが持っていたのがこれよ」
「拝見いたしますな。……低品質のマジックバッグですな。これなら無いのと一緒……まさか?」
「ええ、もしかしなくとも人間はマジックバッグの複製を作っているのではないかしら?」
「まさか……いや……それならばあり得る。在り得ますな」
「人間はダンジョンの物を複製する技術を身に着けようとしている。これで間違いないと思うのだけれど、どう?」
「ダンジョンで取れるものは神が作ったもの。神の創造物たる我々では作れないものなのですな。しかし、劣化品ならば作れると、そう言いたいのですな?」
「ええ、これを安く量産できたとしましょう。では騎士爵の価値はどうなると思いますか?」
「……今よりも格段に上がるでしょうな。魔物を沢山持てますな」
「これを急ぎ大悪魔様方に見て貰う予定でいます。取次ぎをお願いしたいのですが」
「取り計らいましょう。これは悪魔の矜持に関わる、その通りですな」
「お願いするわ。地界で何かあったら商会に伝えますからそちらも情報を流せばよろしいでしょう」
「そうさせていただきますな」
「今回の用はこれだけなの」
「そうですかな。では、誰か!」
控えていたであろう女性が扉を開け案内される。さて、私の仕事はこれで一先ずは終わりだ。また何かあれば利用させてもらうとしましょう。向こうもそれを待っているのでしょうし。
一体誰がどうやって複製したのかは解らないけれど、人間にできて悪魔にできないことはないはずだ。必ずやものにしてくれるはずだ。
地界の情報を得ることと、大悪魔様への取り計らいのお願いで、借りが出来てしまったかもしれないけれど、これは返す必要のない借りね。複製が出来次第返っていくもの。向こうも同じ気持ちでしょうし。
しかし、他の商会に貸しができたわね。その点は良かったわ。貸しは貸してこそ意味があるものだから。返ってこないことに意味があるもの。
楽しくなりそうね。龍の召使も楽な仕事では無いけれど、面白い所に就けたと思う。今後も何かあるのかしら。忙しいのもいいけれど、大人しめの方が好みね。




