71話 名もなき商人視点、勘に賭ける商人
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俺の商人の勘が言っている。この噂は本物だと。2年様子を見たが、噂が消えねえ。ならこの噂は本当の可能性が高い。……話を聞いた当初は眉唾だと思ったんだがな。
飛竜山脈の麓に洞窟があるらしいというのは、冒険者から入手できる情報だ。これは突然と現れたらしい。ずっと前にな。それも俺が商人になる前の話だ。何時からあるのかは知らねえ。
そこに行くには金貨が1枚必要だという事だな。……何でも金貨が1枚でもあれば無事に帰ってこれるらしい。もっとも装備や何からは盗られるそうなのだが。
そこには竜がいるんだそうだ。そして激闘の末に気絶させられて金貨があれば元の場所に返されるという不思議な場所なんだ。噂じゃあダンジョンじゃねえかってのもあったな。
なんてったって穴の中は明るいらしい。いや、正確に言えば穴の奥が明るいらしい。俺は行ったことがないから情報だけだが、なんでも城の遺跡があるらしいのだ。
そこを竜が根城にしているって訳だな。戦ったのにも関わらず、無傷で入り口まで返されることからダンジョンじゃないかって噂になったんだ。
ダンジョンは不思議な所なんだ。何が起こっても不思議じゃねえ。こんなダンジョンもあってもおかしくはない。そして、噂では皆の装備や金をダンジョンが貯えているんじゃないかってことだな。
貯えているなら既に凄い金額になっていることだろう。たかが金貨1枚だとしても何人もの冒険者が挑んでいるんだ。そりゃもう沢山になっているだろうな。
おっと、こんな噂の話がしてえんじゃねえ。最近とは言っても2年くらい前だがな。その噂にもう1つ噂が広まったんだ。
商人は襲われない。それどころか商品を仕入れることが出来るという噂が立った。そんな噂は嘘に決まっている。そう最初は思ったんだがな。
2年もそんな噂が広まり続けるのか? いや在り得ねえ。誰かが何かを取引したんだろう。その噂が広まったんだと思う。ダンジョンが取引? となる噂だが、ダンジョンだからな。そんな事があっても不思議じゃない。
この2年で俺も結構な金額を扱うことができる様になって来たんだ。それが今、商人ギルドに貯め込んでいる白金貨4枚が自信の表れだ。
白金貨を扱える行商人なんぞそうは居ねえと自負している。……大商会はオリハルコン板を扱っているんだが、そこまでは行商じゃあ無理だ。
それもこの間の武器の取引があったからだな。アンベマリノ王国はブロンリック王国と戦争中だ。そこの前線に武器を運搬する仕事を請け負ったのよ。知り合いの行商人仲間に誘われてな。
それで一儲けどころか4往復して白金貨4枚を得たって訳だ。あれ以上は駄目だと商人の勘が言ったんだ。だから止めた。この勘は大切にしているんだ。……命あっての物種だからな。
そんな訳で飛竜山脈に鉄でも売りに行くかって売りにきたんだが、今回あの噂が消えてなかった。噂が2年も消えない事なんてあるのか? これは商機なんじゃないのかと俺の勘が告げたわけだ。2年も前の噂が消えてないなんておかしいことだからな。
そんな訳で全財産である白金貨4枚を手に噂のダンジョンに行く事にした。途中、冒険者が居たので付いて行った。護衛も雇おうかと思ったんだが、そんな事をしなくても冒険者の往来はあるとのことだった。付いて行ったのは当たりだったな。洞窟が見えた。
そこからは冒険者に見つかって一緒に行動することになったんだがな。いや、勝手に付いて行かせて貰っているだけなんだが、斥候役が気が散るってんで合流しただけなんだがな。
商人が行くところじゃねえ、帰れと何度も言われたが気にはしない。俺の勘が告げているんだ。この先に商機があるのだと。行くしかねえよな。
そしてついに明るいところまで出た。確かに城がある。あそこが取引先か。
「ここだ! 竜がくるぞ!」
「私は商人だぞ! 本当に大丈夫なのであろうな!」
「大丈夫じゃねえって言ったのに付いてきたんだろうが!」
「魔法使いは詠唱を始めとけよ!」
別にお前たちに言ったんじゃない。迷宮の竜に言ったのだ。大丈夫のはずだ。噂は本物のはずだ。そう思いながら気絶していた。
気が付いたら絨毯の上にいた。……ここは何処だ! 俺の金はあるのか! 必至になって確認をする。
『気が付いたようね。カルネラ様に伝えてきてくれる? 奥の通路から入って来てもらって』
『解りました』
……良かった。金はある。じゃない。
「ここは何処だ!」
「ここはカルネラ様の居城であるフランクバッハ城です」
「城? てことはダンジョンの中か!」
「……そうです。貴方は商人でしょう? ここに何をしに来たのかは解っているのでしょう?」
ああ、そうだ。俺はここに商売をしに来たんだ。……賭けには勝ったという事か。……悪魔⁉
「悪魔か⁉」
「悪魔ですがそれが取引とは関係がありますか?」
「……」
悪魔か。取引相手として悪いかと言われたら悪くはない。割の良い取引なら尚の事悪くはない。天使を信仰している人間には悪いが、俺はお金を信仰している。悪魔でも一緒か。
「ここで取引が出来るんだな?」
「ええ、でもカルネラ様が来るまでは待機していて頂戴。そのくらいの余裕はあるでしょう?」
そうだな。落ち着け。俺はここに商売をしに来たんだ。竜と戦いに来た訳じゃねえ。
『漸く起きたか人間。ここに来た理由は解っているつもりだ』
やべえ、こいつはやべえ。プレッシャーが半端じゃねえ。これが竜か。……こんな化物に冒険者が勝てるとは到底思えねえ。やばすぎる。
「あ、ああ。取引に来たんだ。ここには金になるものがあるって聞いてな」
『クレール、実物を見せてやれ』
『はい。こちらが砂糖になります。そしてこちらがビッグモスの糸になります』
「ビッグモスの糸、それに砂糖? 砂糖は色が違う! 塩の間違いだろう!」
ビッグモスの糸は知らねえが、砂糖くらいは知っている! 茶色をしてるんだろ。その位は解っている。甘くて茶色いのが砂糖だ。舐めてみた事くらいはあるんだからな。……金貨1枚でな。
『舐めてみろ、それがお前の扱う商品だ』
『ではどうぞ』
……塩だと思って少し舐める。……これが砂糖? 俺が舐めたあれはなんだったんだ? こっちの方が甘え。何だこりゃ。
「あ、ああ。……甘い、確かに甘い。砂糖、これが砂糖か」
多分貴族連中に出されている砂糖がこいつだな。平民に回ってきている安物じゃねえ。これが本物の砂糖か。
『それが取引出来るものだ。クレール値段は任せる』
『砂糖はこれ1つで金板5枚、ビッグモスの糸は1玉金板8枚です』
「――っ! ……砂糖は後幾つある?」
商機が来たと体全体で感じた。これが金板5枚? 嘘だろう? 一掬いが限界だと思っていたが、これがこの瓶に一杯で金板5枚か?
『幾つあったか? 取れすぎて数えるのを止めてしまっているな』
『そうですね。沢山とだけ言っておきましょう』
……まて、金板5枚は解った。何処の通貨でだ? マリノよりも価値が高かったらどうしたものか。
「それと、何処の通貨でだ? それが解らんと取引のしようがない」
そうだ。マリノしか持ってないからな。しかも持っているのは白金貨だ。金板で無いといけないと言われれば交渉するしかない。
『人間の使う通貨なら何処のでも構わん。通貨の価値の差は知っている。だがそれで区別はしない。金板であれば問題ない。ああ、白金貨でも問題は無いぞ』
「……なら、この砂糖を7つ、いや8つくれ!」
勝負を賭けるしかねえ。俺の全財産だ。くれてやる。これはミスリル板で、いやオリハルコン貨で売れる! 勝負は今しかねえ。
『ふむ、それでよいのだな。クレール』
『まずはお金を出してください。白金貨4枚です』
「……解った」
……先払いか。残り7つの瓶が小さいという事も在り得るが、勝負を賭けたんだ。もう後には戻れねえ。
『確かに。では砂糖をお出しします』
「……確かに受け取った」
来た。大きさは若干違うが、気にならねえ。むしろデカいのまであるか? マジックバッグに入るよな? 良し。入ってくれた。
『よろしい。では送り届ける。入ってきた穴まで案内しよう。城を出て待っているがよい』
賭けには勝った。まずは大勝利だ。これを何処に売るのかだが、少し遠出をして大きな商会があるところにした方が良いだろう。飛竜山脈には大商会が支店しか無いからな。本部に直接売りに行ってやる。
……城の扉ってこんなに重いのか? 勝利の余韻が消えていく様な感じがするぞ。力いっぱい押しているんだが少しずつしか開かねえ。何とか外に出たら竜が待っていた。……掴まれたんだが?
『声を出すなよ。舌を噛むぞ』
声を出すどころでは無かった。一瞬だった。空を飛んだ。訳が解らねえ。何が起こったんだ? 飛んだぞ?
『では帰るがよい。道中気を付けるがよい。次回は護衛を雇ってくるようにしろ。道中が危険なのだから用心することにこしたことは無いぞ』
足元がおぼつかねえ。これで帰るのか。来るときと一緒だけ日にちがかかるんだよな。しかし、荷物はばっちりだ。勝負には勝った。後は売りさばくだけだ。
なんとか魔物と遭わずに町まで帰った。そうなるだろうと思っていた。俺は賭けに勝った男だ。そんな事では躓かんよ。さあこれから売りに行くぞ。待ってろよ、俺のお金。




