61話 クレール視点、搾油機を作って貰いましょう、曲がる車
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さて、カルネラ様から搾油機を調達してくれと言われはしたけれど、魔道具の職人はうちの商会では抱え込んでいないわね。何処かの魔道具師に直接頼まないといけないのだけれど、商会を通した方が良いのは確かね。でないと何時まで経っても納品が来ないという事が在り得るわ。
色々と魔道具を買ってはいるけれど、搾油機なんて物は専用の物だもの。急に必要になったから作ってくれと言われてはいと作れる魔道具師がどれだけいるか。
しかもここは魔都。魔界の首都。暇をしている魔道具職人なんているはずもない。父さんがいい所を知っていないかしらね?
「おかえりなさいませ」
「ただいま。父さん、商会長はいる?」
「会長室にお出でです」
「そう、ありがとう」
まあ勝手知ったる我が商会。私の実家だものね。商会が実家で良かったと思うことは少ないけど、私を使って成り上がった商会だものね。あの時は苦労したもの。
「父さんただいま」
「おかえり、今日はどうしたんだい?」
「いつものよ。ゴブリンの死体をビッグファングボアの死体とを持ってきたわ。買取よろしくね」
「いつものか。また奥にまとめておいてくれ。それにしても劣化版とはいえ、マジックバッグを沢山使える強みは大きいね。他の商会はまだみたいだからね」
「そうなのね。思ったよりも難航しているのね」
「そうみたいだよ。何とか伯爵級で狩れる魔物で作れないか思案中らしい。結果は芳しく無いみたいだけどね」
「たしか大公爵級が出ないと行けなかったのよね?」
「そうだね。その分容量は大きくなっているんだけど、より小さいものを作るのに難航しているようだよ」
「そう、暫くはうちの商会が独占な訳ね」
「まあ一部の商会は研究品という名目で使っているんだけどね。その他中小の商会よりは先を行けているのは確かだよ。あ、大商会の内のって意味だからね」
「解っているわよ。それにしても大分無茶もしたものよね。父さんでまだ1500年位でしょう?」
「まあね。クレールが産まれてすぐに自分の商会を持ったからね。クレールのおかげだよ。大分無茶をさせたのは解っているつもりだ」
「ええ、無茶をさせられたわね。ところで、魔道具師に繋がりは無いかしら?」
「魔道具師は無いねえ。いい所なら紹介してあげられるけど、急ぎでってなると難しいね」
でしょうね。大商会とは言え新参者、しかも魔都だもの。そんな伝が無いのは解ってはいる。問題なのは商会の名前を使ってもいいかなのよね。
「余り急ぎでは無いから良いわよ。後3年後くらいに使えれば良いもの」
「そうかい? でも何の魔道具が必要なんだい?」
「搾油機よ。油を搾るのよ」
「油か……。それじゃあうちは噛めないね。何しろ相手がドルレアン商会になってしまうからね。他の大商会も扱ってるし」
「そうね。石鹸も不味いわよね?」
「石鹸も駄目だね。それもドルレアン商会が扱ってるよ」
「そう、やっぱり売れないわね」
「売れないねえ。そこまでの体力はうちには無いよ」
「そう。でも搾油機だけは作らないといけないの。商会の名前を使わせて頂戴」
「それはもちろん。幾らでも使ってくれ。ジャックも大公爵級になれたんだ。それはクレールの功績だよ。もっと誇っていいから」
「ありがとう。でもまだ大悪魔にはなれていないんでしょう? そこまで持っていかなくてはね」
「そうだね。でも後千何百年かかるか解らないけどね」
「そこは仕方がないでしょう? 龍の血なんてものが手に入っただけ儲けものよ」
「そうだね。車を用意させよう。誰か!」
魔道具師ね。会ったことないのだけれど、難しいのかしら? 直接交渉に行けという事だものね。気難しい人で無い方がありがたいのだけど。それは仕方のないことね。
さて、この馬車だけれども、カルネラ様は何故馬に引かせるのかと言っていたわね。ランドホースなのだけれど、まあこの際どうでもいいわ。魔道具ではいかんのかと言われたのよね。
……無理ではない気がするわね。車輪を回すだけなら簡単だろう? と言っていたもの。確かに車輪を回すだけなら簡単ね。私でも今ある魔道具で作れそうな気がするわね。
お土産はこれでいいかしら? 何か研究意欲の高まるものを用意した方が良いだろうと思ってカルネラ様に何かないかと聞いたけれど、良いものを貰った気がするわね。
それで納期が遅くなられても困るのだけれど、それはそれよね。まあ何とかなるでしょう。色々と詳しくは聞かせてもらったからそれを売り込みに行きましょう。メインは搾油機なのだけれど、難しい悪魔だと研究に気を取られて納期が遅れたなんてこともあるかもしれないし。
「着きました、お嬢様。どうぞ」
「ええ、行ってくるわね」
さてと、魔道具師の作業場には初めてきたわね。ふーん、普通の住宅に倉庫がくっ付いたような見た目なのね。もっと奇抜なものかと思っていたわ。案外普通なのね。
「いらっしゃいませ。どうぞご覧ください」
「いいえ、注文に来たのよ。ウィルソン商会と言えば伝わるかしら?」
「少々お待ちください」
さて、うちの商会の名前で誰が出てくるのか。下っ端が出てきたらお土産は要らないわね。重役が出てきたら手札を切りましょう。うちの商会がどのように伝わっているのか、興味があるわ。
もっとも、魔都ではそれなりに有名なのだけど。急激に大きくなった新興商会って名前でだけどね。どんな名声でも良いのよ。名前が売れてさえいればね。名前を知られていない方が問題だもの。
「おう、ロワ魔道具工房の工房長、ダミアン=ロワだ。こっち来な。茶持って来い!」
へえ、工房長が直々に出てくるのね。手札は切らざるを得ないわね。大物が出てくるほどなのかしら? そこまでの商会では無いはずなのだけれど?
疑問は残るけれど、まあ良いわ。工房長が出てきて作れませんとは言わないもの。確実に作って貰える。それは確定したわ。さて、後はうちの商会をどれだけ高く売れるかね。
「さてと、まどろっこしいことは嫌いなんだ。ウィルソン商会だろ? ドルレアンとこの傘下だな。確かそこから独立した奴の店だったはずだぜ?」
「ええ、よくご存じで。申し遅れました、私、クレール=ウィルソンと申します」
「おう、ドルレアンとこの話がうちでは一番だ。納期は遅れる。それでもいいんだな?」
「ええ、構いません」
「それで、何を作って欲しいってんだ?」
「搾油機を作っていただきたくてまいりました」
「搾油機か……。ドルレアンとこと喧嘩になるぞ?」
「いいえ、なりませんわ。使うのは地界にいる人間ですもの」
「ほう、てーとあれか。噂だったあれか」
「ええ、私、龍の眷属になりましたの。今は地界で活動をしていますわ」
「成る程な」
「それと私以外にもあと4人、魔都出身ではありませんけれど、眷属は居ます。それの取りまとめをやらせてもらっているわ」
「それで、地界で搾油機が必要だと。何の油を搾るんだ?」
「ベリアルの油です」
「ベリアルか。ドルレアンとこの農村から引っ張られたか? ドルレアンとこもベリアルなんだよ」
「その辺りについては申し訳ありません。農家の娘としか解りませんわ」
「まあいい。搾油機だな。ベリアルなら問題ねえ。1年かかる。そう思っておけ」
「解りました」
「さて、商談はこれで終わりだな」
「そうですわね。これから馬車で帰らなくてはならないのですが、何故馬車なのかと主人である龍様から言われましたわ」
「ああ? そんなもん決まってるだろ? 曲がらねえからだよ」
「曲がらないと?」
「ああ、動力を付けたこともあるんだ。まっすぐしか走らねえわ、凸凹で不意に曲がるわで何ともならなかったんだ。知らねえのか?」
「ええ、初めて聞きましたわ。でもその龍様がハンドルを付ければ曲がると仰いましたわ」
「ハンドルは付けたさ。何処が曲がるってんだ固定してあんだから持ち手以外の何物でもねえ」
「ええ。ですから回せばタイヤが曲がる様にする機構を付ければ良いのです」
「回すぅ?」
「ええ、円形のハンドルを付ければ良いのです。右に曲がるのならば時計回りに、左に曲がるのであれば反時計回りに。歯車を使って軸を傾ければ曲がりますわ」
「……ちょっと待てよ。……ああ、曲がる。曲がるな」
「ええ、簡単な事なのです」
「確かに曲がる。安全を考えて6輪は欲しい所だが、……行けるな。確かに簡単だ」
「……」
「成る程な。だが、走り続けるな」
「タイヤを押さえる機構を作れば止まりますわ。無理やりですけれど」
「ふむ。押さえるか……ゴムで滑らん様にすれば行けるな。……やれるな。面白いじゃねえか。やってやろうじゃねえか」
「ええ、出来上がりましたら是非ドルレアン商会とウィルソン商会によろしくお願いします」
「おう、半年後には出来ていると思ってくれ」
「では、失礼いたしますわ」
「ああ。お帰りだ!」
さてと、半年後ですか。3年後に使えればいいと言われてましたからね。上々でしょう。それにしてもカルネラ様は見てきたように言うのですから、龍とはそういうものなのでしょうか?
さて、顔繋ぎも上々、これ以上ない成果ですね。今後はここの魔道具屋を贔屓にしましょう。何が必要か、また変なことを言われるかもしれませんが、それはそれ。物にする者がいるでしょう。
今回の事で、また魔道具師が忙しくなるのでしょうか。……ならない訳がないですわね。しかし、昔にも同じような事を考えていたのですね。
曲がらないだろうという私の疑問もそのままで止めてしまっていたようですね。詳しくは私も解りませんけれど、恐らく曲がるのでしょうね。魔道具師も曲がると言っていたのだから。
石鹸の話もそう。油が採れるのだから石鹸が作れるだろう? と急に言われても困ります。ナタリーが知っていたから良かったものを私は知りませんでしたよ?
あの知識は何処から来ているのでしょうか。偶に見てきたかの様な感じで物を作ってますからね。あの建物にしたってそうだ。どのようにして建て方を学んだと言うのか。
まあ付いて行くだけなのですが。利益はこうして頂いているわけですし。出所を漁っても良いことは何もないと言う可能性すらあります。聞かぬが吉なこともあるのです。また何か良いものがないか聞いてみましょうか。何か出てくるかもしれませんから。




