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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クソ祭り

作者: ブリブリしたブリルの着いたドレス

ド下ネタ注意です。

お食事中の方は、絶対に閲覧しないで下さい。





 クソ祭り。

 いや、罵倒では無く、本当にこういった名前の祭りなのだ。

 うちの村は変わっている。

 普段は普通の村なのだが、この飛んでもない祭りがある所為で、変わっていると言わざるを得ない。

 内容としては、村男として選ばれたオッサンが、皆に見守られながら脱糞すると言う、何とも度し難い物である。

 クソ祭り。

 いや、固有名詞では無く、罵倒だ。

 史上最悪のダブルミーニングだ、と僕は思った。

 そして今──


 ──その複数の意味でクソなクソ祭りが今、開催されようとしていた。


 神社は人混みで溢れ、幾つもの屋台が夜の境内をけばけばしく照らしている。

 村にとって重要な行事であるから、村人達がほとんど全員参加している事は勿論として、外部からの来客も思いの外多いのだ。

 どうやら、その奇怪で素頓狂で滑稽な内容が受け、ネット民や民俗学者を中心に人気があるのだとか。

 こんな祭りに足を運ぶなんて、恐らくその中でも相当の物好きだろうが。

 きっと将来「え〜、僕君ってクソ祭りの村の出身なんだ〜」とか言われるんだろう。

 僕は、全国規模で、この恥ずべき風習が知れ渡っている事を悟り、ゆっくりと一粒の涙を流した。


 僕が悲しみに明け暮れている間に、神主と村長のスピーチは終わったようだ。


 そうして、今年の村男──即ち脱糞係が姿を現した。

 あれは……隣の家の柏田さんか。

 来年には、娘さんが小学生になるはずだ。子供の教育に悪影響として、廃止されてしまわないだろうか。

 哀れだ。


 柏田さんはふんどし一丁の姿だが、その格好の異常さも然る事ながら、ふんどし自体もまた通常の物とは少し言い難い形状をしていた。

 尻の辺りに、竹筒が尻尾のように取り付けられているのだ。あそこから、ブツを排出する。

 あれはアダルティな玩具であると言われれば、思わず信じてしまいそうな、恥ずかしいふんどしを、妻子持ちでやや肥満のオッサンが穿いている。

 僕は絵にも言えぬ気分になり、脳内にはただただ「地獄」の二文字が浮かんでいた。


 柏田さんは拳を握ると、先程までの柔らかな表情が嘘のように、険しい表情となり、スクワットよろしく腰を落とした。


「ふん! ふおぉぉおっ!」


 何とは決して言いたくないが、柏田さんが気張ると、観客は「おお!」と一斉に湧き上がった。

 やめろやめろ。

 それじゃあまるで、柏田さんがクラブのDJみたいじゃあないか。オーディエンスが沸き立つな。今流れているのはイカしたBGMじゃない。

 この上無く汚い、呻き声と排泄音だ。


「ふぉんん!! はあぁぁぁぁッッ!!」


 顔を真っ赤にして、大声を上げる柏田さん。

 その声からは、か〇はめ波でも放ってしまいそうな、そんな気迫を感じる。

 いよいよ佳境のようで、フロアのバイブスは益々アガる。

 誰かが歓声に紛れて始めたうんこコールは、何時の間にか会場を呑み込み、境内中に「うんこ! うんこ!」と実にお下劣な言葉が響き渡った。

 僕は涙がちょちょ切れた。

 まるで下痢の時の、調子付いた肛門のように、涙がドバドバと溢れ出す。

 ……おかしい。

 僕は初め、共感性羞恥心やこの村に産まれてしまった事について、泣いていたはずだ。そのはずなんだ。

 だが今は、いっその事清々しさすら覚える。感動している。クソ祭りに感動しているのだ、僕は。


「うんこ! うんこ! うんこ!」


 何時の間にか、僕は自然と、うんこコールに混ざってしまっていた。


「ふぅぅう……!」


 来る! 来るぞ!

 柏田さんの便は今、直ぐそこまで来ている!

 うおおおおおおッ!!


「……はいぃッ!!!!」


 ドッ、と体が揺れる感覚がした。

 それは観客の沸き立つ声か、それとも柏田さんの排泄音なのか、それは分からないけれど。

 そんな事はもう、どうでも良くなっていた。

 柏田さんがうんこをした。今はただ、それだけが重要だった。

 皆が柏田さんに向け、万雷の拍手を送る。僕もまたそれに混じり、掌が痛痒くなるほど、手相と手相を打ち付けた。


 爽やかな顔をした柏田さんは、トイレットペーパー代わりに純白の絹の布を持って、舞台の後ろへと歩いていった。

 僕にはそれが、まるでヴィランを蹴散らした後、颯爽と去って行く、クールなヒーローかのように映った。


 ──クソ祭り。

 いや、罵倒では無く、単に素晴らしい祭りを形容するには、これ以外の言葉が見つからなかったのだ。

 村人、ネット民、民俗学者、観光者。

 境内には、おびただしい数の人々が、所狭しとひしめいている。

 その全員が、一斉に目線を寄せる。

 僕も当然、そちらを向いた。

 悪臭香るそれは、計り知れない存在感を放っている。


 大きな催し物だった。


 史上最高のダブルミーニングだ、と僕は思った。

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