封印と仲間
「いい? アイツにアンタのこと絶対認めさせるわよ」
フィリム様は物凄く気合が入っている。
「なんでそこまでしてくれるんですか?」
少し躊躇うも、割り切った表情で俺にとって驚きの事実を明かしてくれた。
「……私もね、魔眼持ちなのよ」
「え!?」
偏見はないと聞いてはいたが……だがフィリム様の目は魔眼特有の魔法陣がその眼に刻まれていない。
「でもその眼は……」
「オッドアイ、生まれつきだと思った? 封印してるのよ」
封印してしまえば魔眼は使えない。自分自身で封印する事も可能なのは知っている。想像を絶する痛みと引き換えに……。
「私はこの眼で、お母様を殺してる」
「それは……」
フィリム様が右目、緑の瞳の方の眼を押さえながら語る。
「私が生まれたばかりのこと……周りは私を罪に問うことはなかったけど、それでも殺したことには変わりない……その時の被害者はお母様だけではないのに」
魔眼は何かがきっかけで覚醒する事もあれば、遺伝や偶然によって魔眼が覚醒している状態で生まれることもある。
俺も生まれながらに魔眼が覚醒していたそうだが、当時は無力に近い状態だった。フィリム様の魔眼がとてつもない強大な力なのだろう。
生まれたばかりの魔眼の力で事故に発展するケース……俺でも思い浮かぶ事件がある。
「生まれながらに強大な力を持った魔眼……その魔眼は……」
「【石化】。見たものを無差別に石化させる。歴代でも最も強力で、最も忌み嫌われた力よ」
存在する魔眼で最強、しかも生まれながらに強大な力をもってのもの……。
「これをずっと封印している。私は魔眼から逃げたの」
石化の魔眼……やはりそうだ。この魔眼のことは記憶にある。
昔、俺が珍しく書庫から解放されて家族で食事をさせてもらった時に聞いたことがある。
その時も父上と義母上に魔眼の忌みをガンガン言われ続けて食事というよりも僕に嫌がらせをしていただけだとわかり、食事が喉を通らなかった程だった。だから尚更良く覚えている。
王都で起きた魔眼の悲劇……。
生まれたばかりの赤子が強力な石化魔法を持って生まれた。
コントロールするすべを持たない彼女の魔眼は、彼女を取り上げた助産師、祝いに駆けつけた親族、そして……生みの親をも石化させてしまった。
「幻滅した?」
暫く黙り込んでいたせいでそんなことを言うフィリム様。
そんなはずはなかった。
「過去の事故ではどうしようもなかったと思います。もし俺が同じ立場でそのことを知ってしまったら、自分の眼を潰していたかもしれません」
「私も知った後は絶望で私自身を責め続けたわよ。でも、助けてくれた人がいた……だから今は封印しているだけで生きれている。それでも……私は魔眼とは向き合えなかった」
フィリム様はそのまま悲しそうな顔をしながら話を続ける。
「私はお母様から、どんなふうに生きてほしいとも、どんなふうに育ってほしいとも、言わせてあげられなかった……だから、それがあるアンタには必ず成し遂げて欲しい。【魔眼を世の為に使い、魔眼に対する偏見を無くしたい】と私に語ってくれた時はアンタを疑いつつも嬉しかったわ。これは運命だと思ったのよ」
母様だけではない。目の前にいるフィリム様にも、母様が言った言葉を重ねるように俺に言っている気がした。
ーー貴方のその綺麗な眼で、綺麗な世界を作ってね
「はい!」
俺は何故か急に返事をしたが、これは俺の信念を更に強くするのだった。
「何よ急に。ま、最初はアンタを疑ったけどね。ヨハネスが大丈夫って言ったんだからそれも心配ない」
そう言ってフィリム様が笑いかけてくる。
「でも、こんな封印、その気になれば取っ払えるわ。もしものときはあんたもヨハネスも、私が守る。だから、ヨハネスを納得させるのよ」
「ありがとうございます! フィリム様」
「……そういえば呼び方が変わってなかったわね。公の場以外ではフィリムって呼んで。アンタは仲間。敬語もいらない」
「そうですか……わかりま……わかった、フィリム……」
「ふふ……言いづらそうね」
フィリム様、いや、フィリムが俺に向けて初めて心の底から笑ってくれた気がする。
俺はこれからは母様の願いだけでなく、フィリムの悲しい過去も背負って世界を変えていく。
初めて出来た仲間、フィリムと共に。




