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着替えと食事

 フィリム様の個人の所有する家は、ドゥラスト公爵家の敷地内の一角。門番の警備兵に、警戒され俺は睨まれる。

 当たり前か。こんな場所に浮浪者のような男が現れたんだから……。


「この人は私の恩人だから大丈夫よ。さ、来なさいレイス」

「失礼致しました!」


 フィリム様の一言により警備兵が俺に向ける睨みも解かれた。


「でかい……!」


 今まで閉じ込められていた実家が犬小屋位の大きさだとすると、フィリム様の家は一軒家サイズ。更に奥にある公爵家なんて屋敷サイズ。


「まずはお風呂ね! アンタの服は執事にお願いしておくから新しいのを着て頂戴。今着ている服は……ボロボロだし、捨てて良いのかしら?」

「何から何まですみません……」


 案内された脱衣所に行き、幼少期以来の風呂に入った。


 ♢


「一応、油断はしないでレイスって子が敷地内にいる間はしっかり見張っててね、セバス」


 フィリムとて考えなしに見知らぬ人間を家に招くほどお人好しではない。

 恩があるとはいえ、それだけで人を信じることが許されない立場であることは、重々承知していた。

 それでもレイスをこの場に招くことができたのはひとえに、この執事、セバスのおかげだった。


「畏まりました、お嬢様」

「いつも悪いわね。あの子、協力してもらったとはいえ、得体が知れないわ」


 突然現れた協力者が誰かの送り込んだ刺客なんてことは、こんな社会で生きてきたフィリムの耳には嫌でも何度も入ってくる話だ。


「はぁ……こんな時に、アイツの魔眼があれば良いのに、私なんて……」


 フィリムは自分の顔を鏡で見ながらため息をはいた。


「……深く考えないことです。仮にあの者が本当に困っていたとすれば、お嬢様は、『一人の民を救った』とお考えになれば。もしも悪人でしたら、その時は牢に連れていけばいいのです……」

「……そうね。いつもありがとう、セバス……」


 ♢


 暫く湯船を満喫して、俺は脱衣所へ戻った。

 そこには、新品で綺麗な服が一式。


 俺は有難く用意してくれた服を着て、脱衣所の外で待機していた使用人さんに案内されフィリム様が寛いでいるリビングへ移動した。


「随分と長かった分、見た目も格好も見違えたわね!」

「何から何まですみません。湯船に浸かるのもお湯を使うのも幼少期以来だったのでつい満喫してました」


 フィリム様が出迎えてくれる。


「家に浴槽無かったのね。貧民街に住んでるのかしら?」

「いえ、実家はありましたが……訳あって追い出されました。フィリム様とお会いした時も正直、路頭に迷っていたくらいでして……」

「そう……気の毒ね。……お腹空いてるでしょ? 食事の準備も出来ているわ。食べていきなさい」

「そこまでしていただくわけには……」


 流石に悪いと思い遠慮したが、フィリム様は有無を言わせずこう言った。


「食べていきなさい。もう作ってるのだから、アンタが食べなきゃ無駄になるだけよ」

「……ありがとうございます」


 ♢


 用意された前菜、肉、スープ。どれも俺は初めて食べる。とても美味しい。

 フィリム様と大きなテーブルで食事をする間に、色々なことを聞かれた。


 その内容は主に実家での暮らしについてで、話すたびフィリム様は自分ごとのように怒ったり、悲しんだりしてくれる。


「残酷ね。実家では書庫で監禁生活、風呂もバケツと掃除用の雑巾で身体を拭くような生活……食事もパンとミルクと水だけ……どうしてそのような酷い仕打ちを?」

「そ……それは……」


 俺はどうしたら良いか迷っていた。

 王都での魔眼に対する価値観がわからないが、実家でのこれまでを思えば、もしかするとここで魔眼のことを明かすのは悪手かもしれない。

 言葉に詰まった俺の顔をフィリム様はじっと見ながら、こう尋ねてきた。


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