封印と開放
『ガルルルル……』
『ガルルルル……』
ザガル伯爵もバルスも、以前の面影は全くない。
言葉をかけても吠えているだけだった。
「さぁグール化した者達よ! 其奴らを始末するのだ!」
『ガルルルル……』
『ガルルルル……』
ギルドの中で戦うのか!? こんな場所で戦闘をしたらギルドの建物だって……。
「一旦この部屋にいる全員を孤児院の近くにある広い空き地に転移しよう。上層職員さん、あなたも来てもらいますよ。この責任はとってもらうんで!」
俺は有無を言わさずに空間干渉を発動した。少し距離もあるが、孤児院の近くの空き地には誰も人がいなかったしあの場所なら大丈夫だろう。
少しでも距離の照準を間違えると大事故になってしまうので、慎重に照準を合わせて発動させる。
俺が王都に初めて来た時に使った瞬間移動を発動して、この部屋にいた全員を一気に転移させた。
「なんだと!?」
ギルド職員は強制的に転移させられ唖然としていた。
「レイス殿! その魔眼の力はそれほど強力な……」
「まぁまずはグール化二人を何とかしましょう! 話はそれからです」
クレアは戦闘態勢の構えをとりながら喜んでいる。
「ならば、私は先程殴ったザガルという方を先にお相手する。感謝する。ここなら遠慮なくやれる」
クレアは背中に背負っていた長剣を手に持ち、グール化したザガル伯爵と対峙し始める。
「レイス! あなたのお父様と戦うつもりなの?」
心配そうに俺の腕を掴んでくるフィリムに、俺は軽度の笑みを見せて安心させた。
「大丈夫。前の王宮での暗殺の件で俺はあの人を父と思っていない。それに、魔眼を使えば正攻法なら勝機はある」
「わかったわ……。いざとなったら私も……」
『ガルルルル……』
グール化バルスは俺を睨みつけ、かなりの速さで突っ込んできた。
好都合。
俺は空間干渉で世界樹を守った時と同じように自分自身の前に強力な圧縮空間を展開させた。
──ベチャ!!
『ギャオオゥウン!?』
勢いが速かった分、衝撃が凄まじかったのだろう。グール化といえどかなり痛そうに叫んでいる。
「レイス殿、こっちは片付いた。まさか私が本気になるとは予想外だったが……」
早い。
クレアの方を見てみると、グール化ザガルは原型が分からない程のバラバラになっていた。
見てはいけなかった……。
グール化といえど、これならなんとかなりそうだ。
しかし……。
「おっと、剣聖クレア!! これ以上動くとコイツがどうなるか分かってるな?」
「クララ! しまった……」
ギルド上層部員は俺たちがグール化を相手にしている隙にやられた。
孤児院の近くにある避難所をどうやって特定したのかはわからないが、避難所にいたクララというクレアの知人を人質に取られてしまった。
「どこまでも腐ってるわね……」
フィリムは怒りが最高潮に達しているようで、それ故に手を出せなくなってしまった状況に悔しさを滲ませている。
「なんで避難場所が分かったんだ?」
俺はグール化バルスを相手にしながら疑問をぶつけた。
どうせ答えるわけはないだろうと思っていたのだが、ご丁寧に答えてくれる。
「どうせ死ぬんだから教えてやろう。私とてギルド上層部の職員。孤児院の人間数名に魔道具の発信機を付けていたからどこに避難させたかなど簡単なことだ」
鋭いナイフを手にしてクララに突きつける。
「私の妹に手を出すな!」
「ならばクレア! 貴様は一切そこから動くな」
とんでもない誤算だった。
まさか避難させておいて人質を取られてしまうなど……おそらくヨハネスの慎重さだったらこの程度予測して何とかしていたはず。
俺もこれを解決したら訓練が必要だな。
グール化バルスは何度も俺の空間干渉の圧縮空間に負傷を負いながらも体当たりをしてくる。
しかし、グール化の影響からか、ダメージを負ってもすぐに回復してしまうようだ。
傷を与えてもうまく倒せない。
「お前もその妙な力。これ以上使えばこの子は死ぬぞ」
「な!?」
俺は躊躇なく魔眼の発動を止めた。
同時に襲ってきたグール化バルスに突進され遥か後方まで吹っ飛ばされた。
更にクレアにも襲いかかり、抵抗できないクレアは何度も突進され続ける。
「ふふ……ここで皆死ねばいい!」
ギルド上層職員は勝利を確信したような笑いを浮かべながらほくそ笑む。
この笑いに反応して、グール化バルスは、クレアへの攻撃をやめ、すぐ側にいたギルド上層職員と人質のクララの方へ突進していく。
あのグール化、命令を聞くわけじゃなく、見境なく攻撃するのか!!
あのスピードではクララごと突進で貫かれる!
「私、やるわ……!」
「……フィリム!?」
フィリムの今まで封印していた魔眼がその時、封印を解除して開放された。
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