別れと騙し合い(最後のバルス、ザガル視点)
レイスがギルドガブリエルに初めて行った時よりも少し前、リングベルド家では新たな動きがあった。
「ご主人様、王宮からガブネス第二王子様の使用人が来ておりますが……」
リングベルド家の中で、命令があるまで待機していろというガブネス第二王子の命令。
バルスとルーラ、そしてザガル伯爵は命令を守り待機していたリングベルド家に、ついにその報せは届いた。
「いよいよか……。ガブネス王子の使用人が我が家に来たということは」
バルスは急ぎ支度を整えて迎え入れる。
「遠路はるばる──」
「挨拶などどうでもいいのだリングベルド伯爵。……ザガル伯爵も大至急ここへ連れてこい。ガブネス王子より受け取ったという薬だけ持て。それ以外の準備も不要だ! すぐに王都へ出る!」
「は……直ちに……」
バルスは今となっては伯爵という立場でありながら王宮の牢屋から脱走した者。立場がない。リングベルド家に捜索が入らなかったのもガブネス王子の裏工作によって、守られていた。
「私を一人にする気なのかしら!?」
「あぁ、そうだ。だが、必ず任務を果たし戻る。それまで落ち着いて待っているのだルーラよ……」
「キーーー!! 何言ってるのよ!? 私はどうしたら良いのよ! 魔眼のゴミクズは殺せない、ミルトちゃんはおかしくなっちゃう、全てが終わってるのよ!!」
ルーラは家でも錯乱状態になり度々鎮静剤を打ち眠らされる状態を繰り返し、ついに鎮静剤も効かなくなってきている危険な状態だった。
バルスも重々承知はしているが、ガブネス王子の命令通りにしないと次は家庭崩壊と牢獄行きが待っている。ルーラを守りたいのは当然だったが、権力に弱いバルスは命令を優先した。
「大丈夫だ。必ず私が……」
「無理よ無理よ!! あの気色悪い魔眼に殺されるのよ私たちは! あーーー!! なんでいつも私たちはこん──」
バルスは最後の鎮静剤、王都で売っている一番強力な鎮静剤をルーラに打った。一瞬で眠りについた。
「許せルーラよ……」
これがルーラとの最後の会話になることも知らずにバルスは家を出た。
♢
「リングベルド伯爵、ザガル伯爵、貴様らはこれより我々の馬に乗り再び王都へと戻る。レイス、フィリム、ヨハネスを発見次第、ガブネス王子より授かった肉体強化の薬を飲み暗殺するのだ」
「クックック……いよいよ汚名返上の時がきたか……。まさかリングベルドと共に過ごすことになるとは地獄のようだった」
「黙れザガル! 貴様がリングベルド家に上がるなど末代までの恥さらしだ」
「クックック……末代だと? レイスとミルトの代で貴様らの子孫は終わりだ」
ザガル伯爵は、ミルトの情けない口実に騙されて捕まったことはバルス達に話さなかったが、ミルトも暗殺の対象にしている。そしてバルスも対象に。
「よいかザガル! 今回王都に行ったら共闘する間だけは力を合わせるぞ。油断はしない。必ずや目的を遂行し、何としてでもガブネス王子を国王の座にさせるのだ!」
「クックック……そうしないと貴様の未来がないからな」
「お互い様だろう」
この時バルスは、共闘すると言い仲間意識を持たせようとした。
だが、本当は、ザガルを消すための騙し文句だった。
更にザガルも全く同じように、バルスを消しつつ目的を遂行しようと企んでいた。
レイス達はまもなく強力な仲間、冒険者の剣聖クレアを味方につけることなどバルス達は知らなかった。
馬車に揺られながら王都へ近づいていくにつれ、彼らの【人間でいられる寿命】もあと僅かだということも知らない。
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