世界樹と保護
「ここが孤児院だ。ここの孤児院は私を含め、はぐれエルフの末裔の血が流れている者が多く住んでいる」
王都中でも中心部から離れた比較的静かな場所。ここに孤児院が細々と建てられている。
中に入ると、孤児院の中心部だけ透明なガラスで遮られ、一箇所だけドアがある。中には一本の小さな樹が綺麗に育っている。
「綺麗ねー!」
フィリムが苗をみつめながら感動していた。
俺は園芸には関心はないけれども、それでもこの樹は綺麗だと思う。
「これは世界樹。私達の……はぐれエルフ達の命なのだ」
「え!? まさか、この苗が枯れたり壊れたりしてしまうとはぐれエルフの人達は……!?」
書庫で読んでいた小説に似たような事が書かれているのを思い出して、咄嗟に連想してしまった。
「直接的に死ぬ事はないにしても、これははぐれエルフの存在として象徴される『母』というような大事な樹。もしものことがあれば私達は立ち直れない……死も同然なのだ……」
俺も母様を亡くし、大事な言葉をいつも大事にしている。
──貴方のその綺麗な眼で、綺麗な世界を作ってね
はぐれエルフ達が苗を命のように大事にするのであれば、俺にとってはこの言葉が命のようなものだ。
それを失ってしまうとなったら、絶望しかない。
「ギルドは私に、『孤児院を、苗を失いたくなければ命令に従い貴様にしか出来ない任務をこなすのだ』と脅されて仕方なく、孤児院を、世界樹の苗を守るために動いてきたのだ。だから、フィリム姫とレイス殿が声をかけてくれた時はもしかしたらギルドを抜けられるかもしれない……と思ったのだ」
この話を聞いて、俺もフィリムもギルドやギルド担当大臣に対して怒りが込み上げた。
「酷い話よね。弱味に漬け込んで無理やりギルド依頼を課せさせるなんて! ヨハネスに報告するわよ!」
「いや、報告の前に、先に対策をしちゃおうか」
フィリムとクレアは俺に対して何を言っているんだというような眼差しを向けられる。
「対策? レイス殿! どういうことだ?」
「つまり、ギルドの連中は、逆らえばこの世界樹をいつでも壊せるぞと脅しているんですよね?」
「そうだな……仮にギルドと戦争になって、孤児院の者たちを隠しても、世界樹を破壊されればもう私達は立ち直れない。常に心臓を握られたようなものだ」
クレアが悔しそうに言うが、クレアが動けない理由が世界樹ならば、何とかなるかもしれない。孤児院への出資や金のことは、問題が解決すればどうにかなるはずだ。
「じゃあ世界樹ごと保護しよう」
「「は!?」」
俺は魔眼を発動した。
「レイス殿!? 一体何をする!? それは魔眼では?」
「そうです。世界樹には絶対に危害を加えませんので見ててください」
世界樹の周りに【空間干渉】を展開。苗の根元の更に地下部分から、苗の上部分、更に周り一帯をシールドのように、誰も手出しが出来ないようにした。俺がこの空間干渉を改めて発動して解除するまでは、もちろん魔法も魔力も物理的効力も全て受け付けない。
「クレア、樹の近くに触れようとしてみてください。途中で手が進まなくなります。なんなら大変不謹慎な発言ですが、その剣で斬ろうとしてください。必ず苗に届かずに剣が止まりますから」
「な!? 何という発言を! 私がそのようなことできるわけ……」
「クレアの納得が必要なんで……フィリム。俺の空間干渉で世界樹には絶対に触れられない。試して欲しい」
フィリムは俺の魔眼を信じてくれているようで、容赦なく世界樹に触れようと手をかざす。
しかし、途中で透明な壁に当たったかのように手が止まった。
「これ以上は手が進まないわね」
「どういうことだ?」
「クレアも試してください」
クレアは不安になりながらも、世界樹に触れようとしたが、フィリム同様、途中で手が止まった。
クレアが止めたわけでなく、強制的に止まったもである。
「手がこれ以上……どういうことなのだ!? 私は今かなりの力を入れて……岩をも押せるほどの力を入れているはず……それなのに」
「これが俺の魔眼の力です。世界樹の周りに強力な密集した空間を展開させました。その空間は魔力は無効化しますし、人間の力や生き物の力程度では全く入れません。例え世界最高の兵器を用いてもびくともしないでしょう。世界樹側の空気も、適度な水も、別の空間から空気入れ替えや給水を自動で展開させているので、今までと変わらず元気でいられるはずです」
クレアは俺の説明を聞いて納得してくれたようでとても喜んでいた。
「レイス殿!! 其方は、はぐれエルフの救世主かもしれん! かたじけない……。これで私もギルドに堂々と……」
これでクレアは自由に動けるようになったはず。
ギルドに再び俺達は向かった。
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