表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

子に語る怖い話

【子語り怪談】目が付いてますよ

作者: 烏屋マイニ

子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。

「あの」

 その声に振り返ると、若い女性が笑顔でこちらを見ている。

「背中に目が付いてますよ」

 思わず私は、「えっ?」と声をあげる。しかし女性は軽く会釈をしただけで、その場を立ち去ってしまった。

 聞き間違いだろうか?

 背中に目などあるはずがない。とは言え、何かが付いているのは確かだろう。首をひねって確認しようとするが、残念ながら私の首は、そこまで長くはない。

 まあ幸いに、今いる場所は駅だ。改札を出て左に折れればトイレがある。手洗い場の鏡を覗けば、背中を確認することもできるだろう。

「もし」

 またもや背後から声を掛けられる。振り向くと、今度は柔和な笑顔を浮かべる老爺が、やはり言う。

「背中に目が付いてますよ」

 さすがに、聞き間違いではない。

「目、ですか?」

「うん、目だね」

「背中に目なんて……」

「在るものは在るんだから、仕方がないよ」

 老爺は高笑い声を残して立ち去った。

 一体、これはどう言うことだろう。見知らぬ人が二人も、私の背中に目があるだなんて、荒唐無稽なことを。

「お姉さん」

 振り向くと、幼い少年が笑みを向けてくる。

「背中に――」

 私は先んじて言った。

「教えてくれて、ありがとう。背中に目があるんだよね?」

 少年は大きく頷いてから、私に背を向けて駆け出し、人混みの中へ消えていった。

 三人目だ。これはもう、トイレの鏡で確認するまでもない。間違いなく、私の背中には目があるのだ。そして、私の背中の目は、確かに駆け寄ってくる複数の警官の姿をとらえていた。コートのポケットから包丁を急いで引き抜き、刃を覆っていた布を引き剥がしてから、私の肩をつかもうとした警官の顔に斬りつける。「ぎゃっ」と悲鳴が上がり、血しぶきが舞った。しかし、駆け出した私の進路に、別の警官が立ちはだかっていた。まったく、うかつではないか。背後の視界に気を取られ、正面を見忘れていた。たちまち私は取り押さえられ、手錠を掛けられた。殺人容疑、か。

 確かに私は、この駅を訪れる前に、三人を殺している。

 幼い少年をはさんで、若い女性と老爺が散歩をしていた。祖父と孫娘、彼女の歳の離れた弟と言ったところだろうか。夕暮れに歩む幸せそうな三人の美しい姿を、永遠に留めておきたかっただけなのに。

 どうか、この手記を目にした人たちに願う。私の行いが正しかったのだと言うことを、理解して欲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ