迎え
「そのとおりなんだよ。シロにはバレバレだったか」
ケントは照れくさそうに自分が置かれた現状を認める。
「あ、やっぱりですかー」
とシロが鳥の姿のまま言った。
短い付き合いだが、彼女はケントの方向音痴ぶりをばっちり把握したらしい。
「お、おう」
レキは驚いたようだったが、すぐに気持ちは立て直す。
「シロちゃんが自分が一緒なら平気だから来てくれって言うから来たんだが、すでに終わったんだな」
「さすがに一人で全滅させるのは無理だったけどな」
とケントは答える。
ごく一部わざと見逃した個体もいるが、逃れた個体すべてを意図的に逃がしたわけではない。
(やっぱりもっとスキルを練習する時間がほしいな)
彼はそう思う。
逃がしてはいけない相手をけっして逃がさないためにも。
「そりゃそうだろ。お前が出たあと、三千は数え間違いで三千五百だったって騒ぎになってたんだぞ?」
レキは呆れた声を出す。
「え、そうなのか?」
ケントは目を丸くしながら、言われてみればたしかに多かったかもしれないと振り返る。
「気づいてなかったのか……」
絶句してしまったレキに向かってシロが、
「だから言ったでしょ? マスターにとってはオークが五百くらい増えたところで誤差だって」
と言い放つ。
彼女にとっては最大の信頼を言葉で表現したのだが、レキの表情は引きつる。
「お、おう」
「負ける心配はいらないって意味じゃ誤差かもしれないが、逃がしてしまったという意味ではけっこうな差だったぞ」
とケントは反省の意味を込めて指摘した。
「あ、はい」
レキの表情からは感情が抜け落ちる。
ケントは理の外に存在していると理解をあきらめたのだ。
「都市に向かっていった分はどうした?」
ケントは視線をレキからシロに移して問いかける。
「ハンターたちが倒したみたいですよ。私はこの男から離れちゃいけないって言われたので、参加しなかったんです」
とシロは言いつけをちゃんと守ったとアピールしてきた。
「あ、でも、あとから気づいたんですけど、この男を守りながらだったら、私も戦ってよかったのでは?」
そしてさらに気づいたことも付け加える。
「まあ守り切れるなら戦ってもいいが、あくまで護衛が本分だと忘れないでくれよ。そのへん大丈夫か?」
とケントは冷静にたずねた。
「が、頑張ります」
シロはちょっとひるみながらも返答する。
「じゃあ帰るか」
ケントは深く追及はせずふたりに言った。
「ああ、そうだな。英雄のご帰還ってわけだ!」
レキが白い歯を見せながらケントの肩を叩く。
「それにしては締まらないけどな」
とケントは小声で応じる。
帰り道がわからなくなって迎えに来てもらった男を、英雄だとカッコよく扱ってもいいのだろうか。
(そもそも英雄なんてガラじゃないんだよなぁ……)
正直に言うなら逃げ出したいというのがケントの気持ちだった。
(何かメリットがあればいいんだが)
と同時に思う。
この世界で人脈も生活基盤も何もないので、これらが解消されるなら──という期待も存在している。
でなければ彼はさっさと拠点を他の都市に移そうと考えたかもしれない。
レキとふたりかごに乗り、大都市ペスカーラへと戻る。
(方向、あっていたのか)
太陽が出ている方角へシロが飛びはじめたので、ケントは珍しく自分の進む先が正しかったのだと知った。
ペスカーラの城壁の周囲ではハンターたちが待機している。
「あれは見張りか?」
まだオークが来るかもしれないと備えているのだろうか。
「それもあるな」
ケントの言葉にレキは含み笑いをこぼす。
「それよりお前の帰還を待ってるんだよ」
「そうなのか?」
とケントが首をかしげる。
「ああ。もしかしてオークの大群と相打ちになったんじゃないかって心配する声も多くてな。だから俺とシロちゃんがお前を探しに行くのを反対されなかったのさ」
「なるほど」
レキの説明に彼は納得した。




