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オークと狼の主従

「ブヒイイ!?」


 指揮官個体は回りこまれたことに驚愕し、白い狼も急停止しようとしてつんのめる。


 振り落とされたなかったのはさすがと言うべきか、とケントは内心評価しながら忍刀をかまえた。


「お前だけは始末しておくべきだろう」


 彼の言葉が理解できたのか、それとも殺気が伝わったのか、オークの指揮官個体はおびえて体を震わせる。


 白い狼のほうは勇敢にも牙をむき出してうなった。


「忠犬だな」


 ケントは笑わずむしろ忠誠心を評価する。

 

 圧倒的に強い敵に殺気を向けられている状況でも闘志を失わず、主人のために戦おうとするのは立派だと思う。


(俺もこんな犬がほしかった)


 と同時に彼は感じる。


 だがこれだけ忠誠心が高いなら、主人の指揮官オークを倒したあとに彼が新しい主人におさまることは無理だろう。


 狼がとびかかってくるさまは、ケントにとってスローモーションにしか見えなかった。


 レベル200の《忍神》のステータスのおかげである。


(オークよりは強いな……もしかしたらレベル20くらいはあるのか?)


 とケントは感想を抱く。


 彼は知識として知っているだけで、実際に戦ってみて強さの違いを識別できるのかというと疑問だ。


「ブヒイイ」

 

 ケントが白い狼を文字通り瞬殺したのを見て、指揮官オークは醜悪な叫び声をあげる。


 力の差を改めて思い知り、さらなる恐怖心を煽られたのだろう。


「お前には容赦しない」


 三千もの同胞を集めてヒューマンを攻めようとした野心家だ。

 恐怖を味わったオークが反省して更生したという話を、彼は聞いたことがない。


 ならばすっぱり始末したほうがあと腐れはないだろう。


「た、たの」


 何かを言いかけた指揮官オークの首を斬り飛ばす。


「頭部は討伐証明として、狼も一応持っていくか。あとはどうするかな……」

 

 とケントは作業しながらつぶやく。

 燃えてしまった個体もすくなくはないし、残った数も多い。


 一人でストレージに回収していくとなるとどれだけ時間が必要になるのか。


「考えただけでうんざりしてきたな。やめておこう」


 と彼は結論を下す。

 今回の件についてはハンター組合も知っていることだ。


 首魁らしき指揮官オークとその狼の討伐部位を持っていけば、おそらく充分戦果を示せるだろう。


 回収を終えたケントはふと周囲を見回してつぶやく。


「……ところで帰り道はどっちだったっけ?」


 周囲を見てもどちらから自分が来たのか、彼はわからなかった。


 レベル200の敵と遭遇した時か、それ以上にピンチかもしれないと彼は直感する。


「どうするか?」


 探知系スキルは持っていても、方角を把握するためのスキルは持っていないケントは本当に困惑した。


 とりあえずゆっくりと歩き回ってみるが、見覚えのある風景に出くわすことがない。


 そうこうしているうちに太陽の位置がすこしずつ高くなってきている。


「もうそんな時間がたったか……待てよ? 太陽なら東から登ってくるんじゃないか?」


 とケントはひらめいた。

 激震撃神の世界での設定では違う、という設定を彼に記憶にない。

 

(わざわざ変えたならたぶん設定を出したはずだよな)


 開発会社のことをそこまで信用して大丈夫かというと、うなずけない。

 それに異世界の自然現象にまで責任を負わせるのは無茶苦茶だと思い直す。


「よっぽどあせってたんだな、俺」


 ケントは自分で自分がおかしくなり、一人笑い声を立てる。


 そして太陽の方角を目指してまっすぐに歩いていると、空からかごをつかんだ白い鳥の姿が見えた。


「あれはもしかして」

 

 彼が見上げながら思わず声をだすと、白い鳥はゆっくりと着地する。

 そしてかごからはレキが降りてきた。


「レキ、来たのか?」


 とケントが聞く。


「ああ。シロちゃん、お前が敵を壊滅させたあとで道に迷ったんじゃないかと言い出したから、一応見に来たんだよ」


 レキは笑いながら答えた。

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