予想もしなかったこと
「そういう状況なら俺が一人で赴いて、減らせるだけ減らす。取りこぼしは他のハンターたちが協力して倒すというのはどうですか?」
とケントは提案してみる。
「逃げるなよ」
誰かがぼそっと言ったが、彼は無視した。
他のハンターが発言者に肘鉄を食らわせている。
「それは願ってもない話だ。圧倒的な個である程度削るというのは、この際大事な要素になるだろうからな」
組合長はケントの案の有用性を理解して、うれしそうにうなずく。
「もっともケント殿がどれくらい減らせるかにかかっているわけだが……」
と組合長が言うと、
「ホワイトライダーで、コカトリスを何体も狩れる猛者なんだ。もしかしたら、千匹くらいはいけるかもしれないぞ」
と誰かが冗談っぽく答える。
「ベストを尽くすと約束しますよ」
ケントは肯定も否定もせずに言ったあと、すこし考えて
「数を減らせという要請なんですが、全滅させてしまってもかまわないんでしょう?」
とつけ加えた。
組合長以下、全員が息を飲む。
彼の言葉から高潔さと覚悟を見出したようだった。
(あれ、何かミスったか?)
ケントとしては強がりを言ったつもりはない。
被害を気にしなくてもいいなら、一人で殲滅させられる自信はある。
ところが、彼の発言を聞いた者たちはそんな風にはとらえなかったのだ。
「何という覚悟!」
「何という戦士の誇り!」
「力ある者の責務というやつか」
何やら感動した面持ちで口々に言われてしまい、ケントは困惑する。
「あ、いや、そういうつもりじゃなくて」
そして早めに否定しようとしたが、途中で組合長にさえぎられてしまう。
「わかっている。みなまで言わなくても、私はわかるつもりだ。貴殿の立派さと奥ゆかしさを」
「えええ……」
このヒューマン何もわかってない、とケントはげんなりとする。
(力をむやみにひけらかさないようにしてきたつもりだけど、まさかそれが裏目に出てしまうとは……予想もしなかったぞ、これ)
何だか戦う前に疲れてしまった。
オークと戦うほうがずっと気楽ではないだろうか。
そう思いかけて、よくない感情を頭から追い出す。
「と、とにかくオーク退治に出発したいと思うので、場所を教えてもらってもいいでしょうか?」
とケントは組合長に話しかける。
「うむ。奴らは都市の西の平野をゆっくりと進んでいる。すべてのオークが狼に騎乗しているわけじゃないから、速度が出せないのだろう」
組合長は自分の予想を交えて返答した。
「それはこちらにとって有利ですね」
「うむ」
ケントの言葉に彼は同意する。
オークウルフは大型の獣で、オークを背中に乗せたままでもヒューマンよりずっと速く走ることが可能だ。
オークウルフの数が充分にそろっていれば、もっと速く大都市ペスカーラは攻め込まれていただろう。
こうして準備を整える時間もすくなくなっていたに違いない。
「オークは腕力が強いし、武器を使ったりウルフを用意する知恵はあるが、戦略のたぐいは苦手なのが幸いしたな」
と組合長は言う。
ケントも同感だが、全面的には賛成できなかった。
(オークが二千に増えるまで、全然気づかれなかったのというのは奇妙な話だよな?)
引っかかりを覚えるのである。
もっともこちらの世界の常識的には異常ではないと言われたら、彼は反論できないのだが。
(謎解きは後回しにして、ついでに頭脳労働が誰かに丸投げしよう)
とケントは決めて建物の外を出る。
そしてすぐに戻ってきて、
「ところで西ってどっちへ行けばいいですか?」
と聞いた。
シロがいないとなると方向感覚という問題が立ちはだかると、彼は思い出したのである。
「……西ならあっちですよ」
若手ハンターの一人がある方角を指さして教えてくれた。
「ありがとう」
ケントはしまらないな俺と思いつつ礼を言う。
(でもこっちのが俺らしいか)
という気持ちも同時に浮かぶ。




