敵の情報
ケントがハンター組合に顔を出した時には、二十人くらいの男女が建物の中にすでに来ていた。
「おお、ケントさんだ」
「金剛級ハンターも来た。これで勝てそう」
若手ハンターらしき男女は、彼を見て無邪気に喜んでいる。
「状況がさっぱりわからないんだが」
ケントは困惑を浮かべて近くのハンターに話しかけてみた。
「実は俺たちも今集まったところで、具体的な情報を持っていないんですよ」
二十歳くらいの金髪の若者が恥ずかしそうに答える。
「そうなのか」
「じきに組合長から話があると思います」
という言葉にケントはうなずく。
(見たところそんなに強くなさそうな若手もいるんだが、強者だけ召集をかける知らせじゃなかったのか)
もしかしたら都市にいるハンターを全員召集するものだったのかもしれない、と彼は推測した。
さらに五人ほど追加でハンターがやってきたのとほぼ同時に、上の階から組合長が降りてくる。
「待たせたな。取り急ぎ、今回のモンスター情報の開示からはじめたい」
とまず彼は言った。
「ああ。今回の敵は?」
前方にいた銀髪の男が問いかける。
「調査チームの報告によるとオークの群れらしい」
「何だ、オークの群れか」
組合長の言葉にハンターたちの緊張が緩和された。
(オークか……レベル15から20前後のザコモンスターだな。オーガやトロルになるとすこし厄介になるかもしれないが)
ケントは彼らの反応も無理ないと感じつつ、同時にそれだけなら自分たちが呼ばれるはずがないと気を引き締める。
「それだけなら銀級を呼ぶ召集にはならなかったと思うのですが、他には何があるんです?」
と彼は組合長に問いかけた。
「うん。ケント殿は冷静でありがたい」
組合長は彼を褒める。
いやみではなく、他のハンターにケントを手本にしてもらいたいという気持ちがあったゆえだろう。
「本当だな」
「こういうところで違いが出るのか」
「勉強になる」
ハンターたちは組合長の言葉を素直に受け止めている。
(何か背中がむず痒いな、これ)
意図しないところで手本代わりに使われ、視線を集めたケントはちょっと照れくさかった。
ただ、組合長はすぐに話を戻す。
「問題はオークの数がすくなく見積もっても二千、オークが従えているオークウルフが千ほどいることだ」
「オークが二千!?」
「オークウルフが千」
衝撃を受けたハンターたちからどよめきが起こった。
オークは豚のような顔した獣戦士でそんなに強くはないが、数が脅威となりうる。
オークウルフとはオークに飼い慣らされた狼のことで、オークよりも弱いものの嗅覚をいかしての獲物の追跡が得意だ。
レベル10もあれば充分一対一で倒せる相手ではある。
「数が脅威だな」
「そのとおりだ」
ケントのつぶやきに組合長がうなずく。
「銀級以上のハンターは何人もいるが、これだけの大多数を相手取った経験がある者はいない。ケント殿はどうだ?」
「一対多数の経験ならある」
問われたので彼は答える。
「おお」
ハンターたちはどよめき、組合長以下職員たちは希望を見出したような顔になった。
「だが、数がいくら何でも多すぎる。俺一人だと自信はないな」
と彼は話す。
(都市や味方に被害を出さないように気をつけながらだと、広域殲滅スキルを使えないからな……被害を度外視していいなら大した相手じゃないんだが)
もちろん、被害を度外視するなんてことができるはずない。
「そうだろうな……討ち漏らしを出すなというのが無茶な数だもんな」
ハンターたちも納得している。
「巻き込み被害を気にしなくていいなら、戦いようはあるんだが」
とケントは一応言ってみた。
「オークたちはまだ都市から離れた場所にいて、こちらに来るまで時間的余裕はある。……そこでなら多少の被害は気にしなくてもいいはずだが」
組合長はそう答えてじっと彼を見つめる。




