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警報

 カンカンカンという激しい音にケントは目を覚ました。


 カーテンを開けると空はまだ明るくなりはじめたところで、彼の隣で寝ていたシロも目をこすりながら、身を起こす。


 隣のベッドで寝ているレキはもごもごと寝言を言っていて、まだ夢の世界から帰れないようだった。


「起こしましょうか?」


 とシロがケントにたずねる。


「別にいいだろ。何があったとしても、レキは戦力にならない」


 彼はそう答えた。


「それはそうですけど」


 シロも別にレキが戦えると思っていなかったのだろう。


 今鳴らされている鐘の音の意味を知りたいと思うものの、窓の外を見れば建物の外に出てきている人たちがいる。


「誰かにたずねればほしい答えは返ってくるだろう。それこそ宿の人にでもな」


 とケントは言った。


「ちょっと見てくるから、シロは万が一に備えてレキを守ってやってくれ」


「わかりました」


 彼の指示にシロは素直にうなずく。


 この世界でレベル50超えの存在は希少なのだから、彼女ならレキを守り切ることは可能だろう。


 ケントが一階まで起きていくと、宿の人間が真っ青な顔を彼に向ける。


「ああ、ケント様。いらっしゃいましたか」


 彼らは露骨に安堵し、女性スタッフにいたっては涙ぐむありさまだった。


「なにかあったのですか? この鐘の音はいったいどんな意味があるんですか?」


「……これは戦力30以上のモンスターが姿を見せた時にならされる警報なんです。おそらく銀級以上のハンターのみなさまは、召集がかかるはずです」


 ケントに質問された男性スタッフは一瞬怪訝そうな表情になったものの、すがるような顔で説明してくれる。


(俺に参戦してほしいんだろうな)


 彼が金剛級の試験に合格したという話は伝わっていたようだから、当然期待されているだろう。


「わかりました。仲間に一言声をかけてから組合に顔を出してきます」


 とケントが言うとスタッフたちはホッと息を吐き、喜びを顔ににじませる。


(あまり信頼されてもちょっと困るんだが)

 

 内心彼はそう思いながら階段をのぼってシロのところへ足を運ぶ。


 この世界に彼がてこずるほど強い存在がいる可能性は低いと言っても、まだゼロだと決まったわけではない。


 油断は禁物だと言い聞かせてケントは部屋のドアを開けると、レキは起きていたようで彼を振り向く。


「おお、ケント。これ緊急警報だったよな? ハンター組合に呼ばれるんじゃないか?」


 彼は警報のことを知っていたらしく問いかける。


「そうだ。お前たちに伝えてから組合に顔を出そうと思っていて、こうして来たわけだ」


「そっか……警報が鳴るような事態だと俺は役に立たないぞ」


 とレキはきっぱり言った。


「だろうな。だから護衛としてシロを残そうかと思うんだ。シロがいるなら何とでもなるだろう?」


 ケントが言うと彼はうなずいたが、すぐに首をかしげる。


「そりゃそうだろうけど、いいのか? シロがいると移動がかなり楽だろう?」


 彼の疑問はもっともだとケントは思う。

 空を飛んで高速で移動できるというのは、非常にすばらしいアドバンテージだ。


 利用しないのはもったいないのだが、それには理由がある。


「その通りなんだが、今回はモンスターがペスカーラへ襲撃してくるみたいだからな。シロに乗って動き回る必要はないだろう」


 とケントは説明した。


「言われてみればそうか。今回は都市を守るのが最優先だもんな」


 レキは納得してうんうんとうなずく。


「まあモンスターの拠点を探して叩く必要が出たら、シロの出番となるかもしれないが」


 とケントは言って、シロを見る。


「それまでレキのそばから離れないでくれ」


「わかりました」


 シロは素直にうなずいた。

 モンスターを食べに行きたいとワガママを言うこともない。


 理性で食欲を抑えられる得がたいモンスターと言うべきだろう。

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