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羨ましい

 やがて三名のところに料理が運ばれてくる。


「レンズ豆と野菜のスープ、白パン、それからホロホロの香草焼きになります」


 男女スタッフが三人がかりでケントたちのテーブルの上に料理を並べた。


「さすがだなぁ……ホロホロだけじゃなくて、白パンもついてくるのか」


 とレキは感嘆の声をあげる。

 そう言えば白パンはごちそうらしいなとケントは思う。


 安めの宿に泊まった時はパンはつかないか、あるいは黒くて固いものだった。


「ごゆっくりお楽しみください」


 スタッフは品のいい微笑を残して下がる。


「どれから食べようか迷いますね」


 とシロは言いながら、銀色のスプーンに手を伸ばす。


「食器は全部銀製とか、やっぱり高級宿は違うよな」


 レキは手を伸ばす前に感心する。


 銀は人体に有害な物質に対して反応するので、王侯貴族や富裕層に重宝される金属だ。


 平民にはまず手が届かないが、一定の所得や立場がある者は所持しておきたいという位置づけになるだろう。


「そうだな」


 とケントはうなずいておく。


 彼にとって銀はかなりランクの低い金属なのだが、この世界の常識をまた一つ知ることができたと考える。


(銀は貴重な世界なのか……ホワイトバードが強い存在だしな)


 自分の中での魔法の呪文をとなえて彼はスープをまず楽しむ。


「すこし味が濃いけど、美味しいな」


 塩辛い気がするが、味は悪くない。


「まあこういうところは冒険者か金持ちが多いだろうしな。塩や香辛料をしっかり使った料理になるのはわかる」


 とレキが言ったが、ケントへの説明も兼ねているのだろう。


「なるほど?」


 冒険者は肉体を酷使する仕事でもあるので、塩がきいたものや肉を食べたいというニーズがあるのはわかる。


 だが、金持ちもそうなのだろうか。

 ケントが不思議そうにしたのが伝わったらしく、レキが教えてくれる。


「塩や香辛料、特に香辛料が入った料理は一種の地位や財力のシンボルでな。好む人が多いんだ。入れないと自分を貧乏人あつかいするつもりか、と怒る人までいる」


 話しながら苦笑した。


(クレームを実際に言われたことでもあるのか?)


 雰囲気からケントは推測する。


「大変なんだな」


「まあやりがいはあるよ」


 ケントが共感を示すとレキは笑みへと切り替えた。


「食べる人の満足を追求するのがコックとしての俺の矜持だから」


 誇りを持った発言を聞いて、ケントは小さくうなずく。


(矜持……俺にはないものだな)


 彼からすればレキの生き方は羨ましいしまぶしく映る。


(俺もこんな生き方をしてみたい……できるんだろうか)


 《忍神》としての能力はあっても、この際関係ないだろう。


 どちらかと言えば目標や信念、行動の芯となるものを見つけられるかどうかのほうが重要になるのではないか。


(この世界で楽しく生きられたらそれでいいって願いと、相容れない気がするな)


 そんな疑問を抱く。

 だが、そこで思考は中断して料理に意識を戻す。

 

 せっかくこの世界の高めの料理を食べているのだから、味わないともったいないと思ったのだ。


(時間はたっぷりあるんだし、ゆっくりと考えるとしよう)


 先送りにしただけといえるが、この場合先送りしても差し支えはないだろう。

 

「美味しいですね、マスター」


 とシロはニコニコと話しかけてくる。


「ああ、そうだな」


 ケントはホロホロの肉を味わいながら答えた。


 彼の語彙力では言語化するのに困ってしまうのだが、美味しいのはたしかである。


「こんな美味しい料理を味わえるなら、ここを定宿にしてもいいかもしれないな」


 とケントは言った。


「賛成です。美味しいは大事ですもん」


 シロはうれしそうな顔で真っ先に賛成する。


「俺は反対しないが……宿泊費を出してもらう立場だし、ケントなら普通に払えそうだもんなぁ」


 とレキは応えた。

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