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大きな通貨

 ケントがレキをともなって大都市ペスカーラのハンター組合に顔を出した時、受付職員たちは特に驚かなかった。


「やはり日帰りなんですね」


「ホワイトライダーなら、まあ」


 達観したと言うか、あきらめたような表情になっているのはケントの気のせいだろうか。


(まあいちいち驚かれるよりはいいか)


 と彼は割り切ることにする。


「用件はまずコカトリスの頭部の引き渡しなんですが」


「ああ、はい。承ります。頭部が討伐部位証明ですし」


 受付嬢がさあこいという顔になったところで、ケントはインフィニットストレージから十を超すコカトリスの頭部をカウンターに置く。


「ええええええ!?」


 受付嬢の目は限界まで開かれ、その口からは絶叫がほとばしった。

 

「あの数のコカトリス、マジかよ?」


「うそだろ……」


「し、信じられない」


「コカトリスのレベルは42だろ? いくらホワイトライダーだからと言って、そんな馬鹿な」


 見ていた者たちが口々に声を漏らす。


「金剛級昇格試験、コカトリスを一頭だったはずでは!?」


「……まずかったですかね?」


 だんだんと居心地が悪くなってきていたケントは、目をそらしたくなるのをこらえながら、おそるおそる問いかける。


「い、いえ、まずくはないと思いますが……しょ、しょうしょうお待ちください」


 受付嬢は声と体を震わせながら奥に引っ込んだ。


「組合長ー! 組合長はいませんか!?」


 そして大きな声で組合長を呼んでいる。

 涙声になっているように感じられるのは、ケントの気のせいだろうか。


「やらかしてしまったみたいだな。悪い」


 とレキが小声で彼に謝る。

 ケントにコカトリス狩りを勧めた張本人だから、責任を感じているのだろう。

 

「いや、レキのせいじゃないだろうな」


 とケントは言う。


 レキはあくまでもコックなのだから、ハンター組合がどんな反応をするのか、予想できなかったのだろう。


「料理人の感覚とハンターの感覚は違うってことかな」


 彼はそう結論を出す。


「俺が言うのもなんだが……そういう状況じゃなくなってると思う」

 

 レキは言いにくそうに指摘をする。


「何となくわかってるつもりだよ」


 ケントがあきらめてため息をついたところで、老年の男性が受付嬢と一緒に姿を現した。


 上等な青い生地の服を着た老人は、肩幅がしっかりしていて、若い頃武闘派ハンターだったと言われても納得できる。


「君がケントかな?」


「ええ、そうです」


 じっとケントを見つめてきた赤い色の瞳はなかなかの貫禄があった。


「コカトリスの討伐報酬についてだ。白金貨一枚相当になるのだが、あいにくとこの組合では白金貨の取り扱いがないのだ」


 老人はそう話す。


「ああ、なるほど」


 とケントはうなずく。


(高すぎるものは買い取れないってやつか。日本でも聞いたことはあるな)


 どうなんだという気持ちがないわけではないが、今回は彼が指定された数の十倍ものコカトリスを倒して持ち帰ったのが悪い。


 ハンター組合を責めるのは筋違いだろう。


「金貨100枚でなら支払えるので、できれば金貨での支払いとしてもらいたいのだが、かまわないかな?」


 老人の質問という形のお願いをケントは快諾する。


「かまいませんよ。大きな通貨だと日常で使う分には大変そうですからね」


 大都市でしか使えない場合、あるいは食べ物を買えない場合は特に困ってしまう。


「感謝する。わしはペスカーラハンター組合の組合長、ザラックだ」


 不意に名乗られてケントはすこし意表を突かれる。

 ザラック老人の名前を知ったからどうということはないはずだ。


(俺と仲良くしたいって意思表示なのか?)


 戦士は相手への敬意を表す時に名乗ったりする場合があると、彼が読んだ漫画ではあったが同じことだろうか。


「ケントです。改めてよろしくお願いします」


 礼には礼で応じようと彼は名乗り返す。

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