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世界の摂理

「ああ、ホワイトバードの飛行能力なら、このまま飛んでも今日中に間に合うのか。そうか」

 

 レキはケントが何かを言う前にハッとなり、一人でぶつぶつつぶやく。


「予定的にまずいというなら止めておくが」


 とケントは言う。


 彼は純粋な善意で申し出たのであり、レキにとって好ましくない展開になりうるなら撤回するつもりだ。


「いや、問題はないよ。ただ、俺一人だとこの村でもう一泊していくつもりだったからな。村長に話をしておいたほうがいいだろう。泊めてくれた礼も言わないとな」


 レキは事情を話す。


「うん、そういうことなら俺たちは家の外で待っておこうか」


 とケントは答える。


 村長とは面識がないし、知り合ったばかりのレキが世話になったと話しかけるのも奇妙な感覚だ。


「ああ。ちょっと待っていてくれ」


 レキは手早く荷造りをしてしまうと、すばやく家の外に出て行く。


「ちょっとせっかちすぎたかな?」


 彼が離れたタイミングでケントが小声でつぶやいた。


 もうすこしのんびりするという展開もあったはずなのに、彼は自分のペースで話してしまった感が否めない。

 

「あの人がいやがっているわけじゃないんだし、いいんじゃないですか?」


 シロは大らかな返事をする。


「俺が気にしすぎなのかな」


 たしかにレキはびっくりしていたが、それだけだ。

 

「だと思いますよー」


 シロに明るく言われるとそんな気がしてくる。


「よし、外に出るか」


 レキが荷造りを終えて出た家は、備えつけだったらしいかまど以外に何もない殺風景すぎるところだ。


「ヒューマンの巣も格差あるんですねえ」


 しみじみと家の中を見廻した後、シロはそう言ってぴょんと跳ねるように外に出る。


「ヒューマンも、か」

 

 さりげない言葉だったが、何気にモンスターの生態も示唆されたとケントは感じ取った。


「モンスターも格差はあるのか?」


 レキが合流するまでヒマだからと彼はシロに問いかける。


「ええ。基本的に強い個体ほど好みのねぐらを確保できます。弱い個体は隠れるところがなかったり、獲物がいなかったり、ねぐらを作るのに必要な素材がないような場所に追いやられるんですよ」


 と彼女は答えた。


(弱肉強食の摂理ってやつか?)


 強い者にだけ選択権を持つのは厳しくて残酷なように思えるが、自然界にとっては当たり前なのだろうとケントは思う。


 動物やモンスターにとって、強さだけが唯一の法であり秩序だ。

 

「そうなんだろうなぁ」


「弱い個体でも守ったり助けたりする。ヒューマンって珍しい種族ですよね」


 とシロが自分の感覚でしゃべる。


「それはどうだろうな?」


 ケントは疑問を返す。


 たしかに弱者に手を差し伸べ、救済しようとする立派な者はいるだろうが、それはすべてではないはずだ。


(本当に弱者が守られ、救われるなら辺鄙なところに貧しい村があるはずがないんだよなぁ)


 と彼は思うのだ。

 ヒューマンの社会や感覚に疎いシロには、そこまで頭が回らないのだろうが。


「ふうん?」


 その彼女はケントの反応から何かを感じたらしく、おやっという顔をする。

 そこへレキが荷物を抱えて戻ってきた。


「待たせたな。出発しようか?」


 さわやかな笑顔で言ってきた彼に対して、ケントは申し訳なさそうに言う。


「……ペスカーラに行った時、お前の寝床をどうようかと迷っているんだが、俺たちと一緒でかまわないか?」


「ああ、野宿に慣れてるからその辺は気にしなくていいぞ」


 レキは大したことがないと笑うが、ケントはそうは思えない。


「俺が雇ったコックと考えれば、面倒は見なきゃな。宿かハンター組合に聞いてみよう」


「真面目だな。そうしてもらえるなら、俺はありがたいが」


 ケントは何とかアイデアをひねり出せたので、ひとまず安心して出発した。

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