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発想の転換

「とりあえず五匹ほど狩ってきた」


 日暮れになったところで再び戻ってきたケントは、レキに報告する。


「そ、そうか。一日にコカトリスを五、六匹も狩れるなんてお前らおかしすぎると言いたいんだが、お前らにとっては普通のことなんだろうな」


 と言ったレキの顔はすこし引きつっていた。


「お肉! 料理をお願いします!」


 彼の背後からひょっこり顔をのぞかせてシロがねだる。


「お、おう……料理の代金とコカトリスの討伐報酬、明らかにつりあってないんだけどなぁ」


 とレキは小声で言う。


 彼は真面目だからか、自分が受け取るほうが大きすぎて釣り合っていないと感じているようだ。


(ラッキーで片づけるような奴より、よっぽど好感を持てるな)

 

 ケントはそうレキのことを内心評価する。


 彼は日本での経験からずうずうしい人間はあまり得意ではなかったし、そこからつけあがるような者は苦手なのだが、今のところレキは違うようだ。


「まあいろんな食材を美味く調理するってのは、けっこう大変だろう。それに情報を教えてもらいたいしな」


 料理の技術料と情報料と考えればよいとケントは話す。


 同じことをくり返しただけな気もするが、大事なことだからかまわないだろうと思う。


「うーん……むしろ俺がお前らの専属コックとして雇われたと考えるべきか? そう考えるといろいろと納得できてくる」


 とレキは腕を組んでうなる。


「発想の転換か。お前がそれでいいなら、俺はその解釈でもかまわないが」


 ケントはこだわりのない答えをした。

 彼にしてみればレキが専属コックになってくれるのはとてもありがたい。


 メリットはあってもデメリットは特に思いつかなかった。


(厳密にないわけじゃないんだが、こっちの世界の人と関わる上で生じる分はノーカウントにしないとな)


 と思う。

 誰が相手でも変わらない分は、「レキと関わるデメリット」とは別計算でいい。


「そうしてくれると、俺は気楽だ。つええヒューマンに雇われたおかげで安心だし、食材も豊かになったと考えればうれしいしな」


 レキは満足そうに白い歯を見せる。

 気の持ちようというやつかとケントは納得した。


「俺の専属コックになるっていうなら、俺の希望をある程度聞いてもらいたいんだが、それはかまわないのか?」


 同時に解消しておきたい疑問をぶつける。


「ああ。さっきも言ったと思うが、俺は特にかなえたい目的があるわけじゃない。せいぜいコックとしての腕を磨き続けることくらいだ。さすがに無理難題は困るが、そんな無茶振りをしてくるとは思えないしな」


 とレキは答えた。

 言葉の節々から自分に対する信頼を感じられて、ケントはすこしうれしくなる。


 こんな短期間で信じてくれていいのかと思わなくもないが、それ以上に信頼には応えたい。


「その都度相談ってことにしたほうがいいかもしれないな。俺は無茶を言うつもりはないが、お前にとっては違うってことはあり得えそうだ」


 何しろ自分とこっちのヒューマンでは感覚も常識も違うからな、とケントは心の中でだけつけ加える。


 彼にとってレベル100のモンスターは瞬殺対象でしかないのだが、こちらの世界ではどれほど規格外の存在になるのか想像もつかない。


「……配慮してくれると助かるな。とりあえず戦力40くらいのモンスターをほいほい狩り集められるくらい強いって、理解はできたつもりでいるんだが」


 レキはすこし警戒するような顔になる。

 ケントの人柄は信じてはいても、感覚のズレについてはまた違うということだ。


 ケントとしてもそっちのほうが間違いなくつき合いやすい。


「……たとえばなんだが、今日このままペスカーラに移動するというのはどうだ?」


 彼はすこし考えてから探りを入れてみる。


「は?」


 レキはぽかんとした。

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