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小さな村

 シロがゆっくりと飛んだおかげで、レキも案内しやすかったようだ。


「あ、あそこだよ」


 とレキは指さした先には小さな村がある。

 規模から推測するに人口はせいぜい百人くらいだろうか。


 町だと石の壁があったが、眼前の村には木でできた柵すらなかった。


「じゃあ手前で降りてくれ」


 とケントがシロに指示を出す。

 いきなり村の中に降りたらパニックが起こるだろうという判断だ。

 

 彼らの接近に気づいた一部村人が、顔をあげて何か話し合っている。


「ホワイトバードだと驚かれるかって思ったけど、意外と冷静だな」


 シロが降下していく中、かごに乗ったケントがつぶやく。


「単にホワイトバードを知らないだけだと思うぜ。辺境の田舎の人たちだからな。でっかい鳥がいるんだな、で終わるんじゃないか」


 とレキが答える。


「なるほど」


 地域によっては知識や情報の量にも差が出るのか。


(通信アイテムだけじゃ埋まられなかったか。それとも小さな村は、そんなものを持てないってことか?)


 とケントは自分なりに考察してみたが、答えは出そうにもない。


 ハンター組合が保持していた例のアイテムが、どれくらいの存在なのか知らないと難しそうだ。

 

(あなたがいた場所にはなかったのですか、と不審がられたらまずいと思って聞けなかったんだよなぁ)


 大陸ごとで違う文化や仕組みならごまかせるからかまわない。

 だが、共通の常識だったらどうしようとためらいがあって踏み出せないのだ。


 ケントが考えていた隙にかごは地面に触れ、レキが先に村に降り立つ。


「レキさん、早いお帰りだね」


 と中年の男性が笑顔でレキに話しかける。


「ああ。こっちの人とばったり出くわして、厚意で送ってもらえたんだよ」


 続いて降りたケントを示しながら彼は紹介した。


「へえ。もしかしてこの鳥、この人が飼ってるペットか何かかい?」


 中年の村人は何とも呑気な問いを放つ。


「まあそんなところですね」


 わざわざ怖がらせる必要はないだろうと、ケントはとっさに判断して答える。

 その直後、シロはヒューマンの姿に変身した。


「あれ、変身できるんだ? 変わったペットだね」


 村人たちは緊張とは無縁な態度で、あっさりと彼女のことを受け入れる。


「ええ。変わっているでしょう?」


 とケントは言う。


「オウムみたいなもんだね」

 

 彼の狙いを察したのか、レキも話を合わせてくれる。

 シロも空気を読んだらしく、自己主張をしなかった。

 

(この世界にもオウムはいるのか)


 とケントは内心驚く。

 激震撃神では単なるペット・マスコット扱いだったのだが。


「さあ、お礼に俺の料理をごちそうするぜ。と言っても、今ある食材は魚と野菜に麦、香草くらいだが」


 とレキは言う。


「ああ、楽しみにしているよ」


 ケントはにこやかに対応する。


 彼が気にしているのはレキの料理ではなく、所持している料理人スキルのほうだった。


(中級スキルの使用はおそらく無理だろうが、下級スキルでもゲームと比べてどう変わったのか)


 確認する意味はあるからだ。

 

「おう。悪いがしばらく待っててくれ」


 と言って右手を振ってその場を去ろうとしたレキを、ケントは呼び止める。


「よかったら料理しているところを見せてくれないか?」

 

 実際に見てみないとレキがどんなスキルを使うのか、わからないからだ。


 知らない人たちだらけの村の中に取り残されるのはつらい、というぼっち的な理由も多少はあるのだが。


「そりゃかまわないが……見ていて楽しいとは思わないぜ?」


 レキは不思議そうに言いながら許可をくれる。


「俺が見たいだけだから。レキに楽しませる責任があるわけじゃないよ」


 とケントは答えた。


「ならいいや。空き家を一軒借りているから、調理もそこでつもりだ。お前がいいって言うなら、足を運んでもらおうか」


「わかった」


 レキの言葉にうなずき、彼が歩き出すとシロも黙って後に続く。

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