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樹海での出会い

 シロが探知を使いながら何匹かの蛇、虫、小動物を平らげた後、急に右を向く。


「新しい獲物を発見しましたけど、何かヒューマンっぽいです」


 と彼女はケントに報告する。


「ヒューマンが? この樹海にか?」


「あっちの方角だと樹海の出入り口だし、入ってくるヒューマンがいてもおかしくはないかなと思います」


 首をひねった彼にシロはそう言った。


「なるほどな」


 シロは彼と違って方向感覚がしっかりしている。

 上空を飛んだ際に、どの辺が樹海の入り口に当たるのかも覚えたのだろう。


「どうします? 無視します?」


 と彼女は問いかける。


「うーん」


 ケントは迷う。


 この樹海にやってくるくらいだから、知識なり実力なりそれなりに自信があるのではないだろうか。

 

 多くの情報がほしいケントとしては、知り合っておいたほうが得は多い。


(今のところ驚かれることはあっても、警戒されてはいないみたいだから大丈夫か?)


 と考える。


 もちろん実は警戒されていたとしても、すでに手遅れだという開き直りに近い感覚もあった。

 

「よし、会いに行ってみよう。もしかしたら護衛の仕事を頼まれるかもしれない」


 とケントは結論を下す。


 激震撃神で料理、調合、鍛冶といった生産系スキルと呼ばれるものを多くとったプレイヤーは、戦闘力が低く護衛を雇うことが多かった。


「この樹海に来るくらいなら、護衛はいるかもしれないけど」


 そしてぼそっとつけ足す。

 

「一人だったし、弱そうでしたよ?」


 そんな彼にシロが追加情報を話す。


「一人? 勇気あるな……それとも入り口付近だと危険は少ないのか?」


 ケントは疑問を口にする。

 この世界のヒューマンにとっての基準がまだよくわかっていないのだ。


「悩んでも仕方ないか。行ってみよう」

 

 彼はとりあえず会ってみようと考え、シロに指示を出す。


「案内してくれ」


「はい。こっちです」


 シロは右指で前方を示し、前に立って歩き出した。

 途中、リスらしき生物を見かけたが彼らは放置する。

 

 固まっていた小動物は、安心したようにこそこそ姿を隠す。


 ケントたちが人影とばったり遭遇したのはしばらく歩いてからのことだった。

 

「この樹海で男女連れなんて珍しい」


 とつぶやいたのは二十歳くらいの男性だ。

 茶髪を短く切りそろえていて、薄緑のシャツに黒のパンツは清潔感がある。


 右手にはナイフというよりは包丁を持ち、背中には鉄の鍋を背負っていた。


「料理人ですか?」


 とケントは思わず問いかける。

 激震撃神でも似たような格好のプレイヤーを見た記憶はあった。


「ああ。旅の万能コック・レキとは俺のことさ」


 コックと言うよりも営業マンのほうが似合っていそうな、さわやかな笑顔だった。


「俺はケント、こっちはシロ。よろしくお願いします」


「よろしくです」


 ケントは真面目に、シロは簡単にあいさつをするとレキはうなずく。


「この樹海をたった二人で歩き回るなんて、大したもんだな」


 彼の言葉にケントは呆れる。


「あなただってたった一人じゃないですか」


 少なくとも度胸はあるはずだった。

 それを聞いたレキは苦笑して肩をすくめる。


「ちゃんと身のほどをわきまえているさ。樹海の入り口付近なら俺一人でも何とかなるし、いい香草が手に入るってね」


「へえ、香草ですか。差し支えなければ同行しても?」


 ケントはおそるおそるたずねた。

 旅のコックならそこそこ情報を持っているだろう。

 

 それにこちらの世界の料理スキルがどうなっているのかも気になる。


「かまわないよ。あんたらかなり強そうだし、護衛かわりになってくれたら儲けもんだ」


 レキは白い歯を見せて答えた。


 豪胆なのかそれともお人よしなのか、ケントにはわからなかったが、ひとまず出会いに感謝する。


「俺たちでよければ引き受けますよ。よろしくお願いします」


「こっちこそ! ああ、敬語なんてなしでいいぜ。俺は堅苦しいのが苦手でね」


 とレキは彼に注文をつけた。

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