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金剛級昇格試験

「戦力42超えのモンスターを、鶏肉扱いだと……」


 誰かが畏怖の声を漏らす。


 緊張感がないのはまずかったかとケントは思うが、むしろ彼らは彼に対して尊敬の気持ちを抱いたようだった。


「えー、あいつ食べるんですか? 毒抜きがめんどうですよ?」


 シロはちょっといやそうな顔になる。

 まるで経験したことがあるかの口ぶりに、ケントはくすっと笑う。

 

「食いしん坊だな、お前」


「だって、お腹いっぱいは正義ですよ?」


 とシロは主張する。


「違いない」


 腹が減っては戦はできぬという言葉を思いしながら彼は同意した。


 そもそも《忍神》ならコカトリスの毒なんて効くはずがないだろうが、言わなかった。


 毒を抜いて食べたほうが美味しいだろうと彼も思う。


「コカトリスの出現場所はペスカーラの北に広がる、ボロディア樹海です」


「樹海か」


 ケントはすこし声を低くする。

 激震撃神において樹海は厄介なエリアだった。


 空が見えなくなる阻害効果と、あらゆる探知系スキルが低下する、あるいは使用不可能になるデバフがフィールド効果として適用されていた。


 もっともこの世界の金剛級試験ということなので、本当に厄介なエリアには入らないかもしれない。


(だが、一応警戒はしておくか)


 とケントは考える。

 ただでさえ彼は方向感覚に弱いのだ。


 樹海となると余計に苦しくなるだろう。


(いざとなればシロを飛ばせればいいという手段があるから、まだマシだな)


 受付嬢もきっと似たようなことを考えているのだろう。


「コカトリス一匹を仕留めればいいんですか?」


 とケントは問いかける。


 倒すのか、生け捕りにするのか、子どもや卵を狙うのかで立ち回りが変わるので、大事な部分だ。


「ええ。討伐部位として頭部を提出していただきますので、他の部位は召し上がっても大丈夫ですよ」


 受付嬢は微笑みながら説明する。


「何だか食いしん坊キャラにされてしまった気がするな」


「ありがたいと思います」


 ケントは苦笑したが、シロは配慮されたと無邪気に喜ぶ。


「ついでに他のモンスターを間引いてくるのはありですか?」


 わざわざコカトリス一匹だけ狩って戻るのは手間だ、という意識から彼は受付嬢に問いかける。


「えええ!?」


 と彼女は叫ぶ。


「あの人、余裕ありすぎるだろう……」


「コカトリス、毎年何人ものハンターが殺されてるのに」


「そりゃホワイトライダーだからな。ホワイトバード自体、コカトリスよりも強いだろ」


 背後で生まれるざわめきをケントは聞こえないふりをする。


(気にしたら負けだ。あの人なら仕方ないと受けられるようになれば、すこしはやりやすくなるだろうか)


 とふとひらめいた。

 つまり活動拠点をころころ変えないほうがいいのかもしれないと。


 あくまでも逐一騒がれたくないならの話だが。


「とりあえず樹海への行き方がわかるものを見せてもらいたいのですが」


 とケントは頼む。


 彼でなくてシロが見るほうが確実なのだろうが、それを自分で口にするのはすこし気恥ずかしい。


「はい。金級のハンターなら、写しの地図を自由にお持ちいただけるのですが、お渡ししましょうか?」


 受付嬢は反射的に地図を取りに行こうとして腰を浮かせ、そこで動きを止めて彼に確認する。


「そうですね。持ち歩いてもいいなら、持ち歩きたいです」


「かしこまりました」


 受付嬢は笑顔を残して奥の部屋に引っ込む。

 ほどなくして戻ってきて、一枚の紙を彼に渡す。


 ケントが広げてみると、大都市ペスカーラに周辺地域の情報が記載されていて、小さくだがファーゼの町もある。


(金級からは地図の写しを無料でもらえて、持ち歩けるようになるとはな)


 一種の特権だろうと彼は考えた。

 それだけ有事の際に戦闘力の提供を期待されているのだろうと、同時に思う。

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