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やってしまった

 マザーワームのレベルや強さはジャイアントワームと変わらないが、ワームの卵を生み出すという特殊能力を持っている。


「ジャイアントワームを兵隊、ワームを壁にしてワームを生みまくると序盤のうちはうざかったな」


 今となってはなつかしい思い出だとケントは振り返った。


 攻略法はマザーワームを倒すしかないので、遠距離攻撃や広域攻撃持ちが重宝されたのである。


「序盤だったから攻略できるチーム少なかったもんなぁ……」


 開発者がクソ認定される原因の一つ、通称「マザーワーム事件」だ。


「シャアア!」


 そのマザーワームは怒りの咆哮をあげている。


「群れをつぶされて怒ってるっぽいです。普通なら逃げるんでしょうけどねー」


 とシロが解説っぽいことを言った。

 

「マザーワームは逃げないからな。ボス系モンスターは逃げないから、クソモンスターには変わらないけど」


 こっちの世界だとさすがに逃げるだろうとケントは思っていたのだが、どうやら予想は外れたらしい。


「んん?」


 シロは何のことかさっぱり理解できず、不思議そうな声を出す。


「おっと、こっちの話だ」


 とケントは言ってスキル「居合斬り」を放つ。

 鍔が音を立てた直後、マザーワームは首を切り落とされて体が崩れ落ちる。


「こいつも持って帰ろう。食べるか?」


 ケントが頭部をインフィニットストレージに放り込みながら聞くと、シロは首を横に振った。


「マザーワーム、まずかったです」


「食べたことあるのか」


 いやそうな顔に彼は苦笑をこぼす。

 彼が思っているよりもずっとシロは食いしん坊なのかもしれない。


「よし、戻ろう。ちょっとは間引けただろうし、帰って俺も昼飯でも食べよう」


 どうせならこちらの世界の食べ物も味わおうと彼は思う。

 そのためにもランクをあげて、こちらの世界のお金を稼げるようになりたい。


「賛成です」


 シロも飽きたのか、帰還に喜びを見せる。

 

 ケントたちはハンター組合に戻ると、ワームたちの頭部を買い取りカウンターの上に少しずつ並べていく。


「とりあえず南のほうはワームがいっぱいようなので、片づけておきました」


「は、はい。ジャイアントワームが十!? それにこれ、まさかマザーワームでは!?」


「マザーワームだって!?」


「一匹出たら大都市が壊滅するっていう!?」


 受付嬢の叫びを聞いたハンターたちもざわめく。


「……うん?」


 ケントは引っかかりを覚える。

 ワームの数が多いことに驚くのは想定の範囲内だ。


 ジャイアントワームはレベル30前後なのだから、銀級が必要になる強さだろう。


 だが、マザーワームは都市が壊滅するほどの強さだろうか。

 要するに魔法使いや遠距離攻撃手段持ちを並べたらいいのだ。


 こちらの世界はケントと比べて弱いかもしれないが、かわりにゲームの都合という縛りから自由であるはずだ。


「……銀級が数人いれば、マザーワームくらい倒せるんじゃないか?」


 とケントはついついぼそっと言ってしまう。


「む、無理ですよ! マザーワームはジャイアントワームを従えた状態で活動するんですよ!?」


 受付嬢の返答はほとんど絶叫と言ってもよかった。


「うん、ああそうか」


 彼は自分の勘違いに気づく。


 レベル30前後のジャイアントワームと一緒に、マザーワームとも戦うとなるとたしかに難易度は大きくあがる。


(……考えたことなかったけど、こっちの世界の銀級とか金級って具体的にどれくらい強さなんだ? もしかしてスキルも持っていないとか?)


 ゲームの都合とは自由なのだから、マザーワームと戦う手段くらいあるだろうと彼は思ったのだ。


「と、とりあえず組合長に相談してくるので、しばらくお待ちを!」


 受付嬢は早口でまくし立て、パタパタと足音を立てて大急ぎで階段をのぼっていく。


「……やってしまったのは仕方ないとあきらめるか」


 別に特別な強さを持っていると知られただけで、デメリットが生まれると決まったわけではない。


 彼はひとまず自分に言い聞かせる。

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