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もちろんだ

「こんだけ狩りまくっていたら、そろそろ大物が出てくるところだが」


 とケントがつぶやいたのはゲームであった展開である。


 戦闘エリアで汎用モンスターを狩りまくっていると、エリアのヘイト値が上昇して手強いエリアボスが出現するというシステムだったのだ。


 ボスと連戦したい場合、とにかく汎用モンスターを狩るのが大事なので、汎用モンスターを誘引するスキル持ちと、広域火力持ちが重宝されていた。


「んーと、みんな逃げちゃうかもしれませんね。ワームは鈍感だけど、それでも危険察知がないわけじゃないので」


 と横を歩くシロが言う。


「なるほど、生物としての本能か」


 ケントは納得する。


 仲間を狩られた怒りと恨みを晴らすために襲ってくる──というのが彼が想定していた展開だった。


 しかし、考えてみれば同種を乱獲している危険な相手から逃げ出す個体がいても、何もおかしくはない。


「仲間を殺された怒りをぶつけてくる奴はいないのか?」


「めったにいないと思いますよー」


 ケントの疑問にシロは即答する。


「一匹でも生き延びれば群れは存続できるって考えが普通ですし。おびき寄せたいなら、幼体を生け捕りするのがおススメですね」


 彼女はさらにあっけらかんと助言をつけ加えた。


「……子どもを奪われた怒りと言うより、幼体がいないと群れがやばくなるからか?」


「たぶん両方です。種によって違うんじゃないでしょうか」


 とシロは適当な感じで答える。


(まあすべての種について知っていろってほうが無茶だしな)


 むしろ彼女はかなり詳しいほうではないだろうか。

 ケントは不満に思うどころか感心する。


「そこまでする必要は感じないな」


 と声に出して言った。

 適度に間引けばいいという話で、実際に達成できているのだ。


 わざわざおびき寄せを使うこともないだろう。

 奥に進んでいると、途中にある木立からあわてた様子で鳥が飛び立つ。


「あれはただの鳥でモンスターじゃないのか」


「みたいですね」

 

 ケントは《忍神》の視力があるのではっきりわかったが、シロもなかなか優れているようだった。


「モンスター以外にも普通の動物がいるんだな」


 とケントは驚く。

 普通の動物は魔力を持たず、特殊な能力も持たない。


 魔力や特殊能力を持つモンスターがいる世界で、彼らが生き残っているのは予想外だった。


「ああいう奴らは特殊な力を持たない分、危険を察知するのと安全な場所を探すのが得意なんですよ」


 シロがすこし忌々しそうな声を出す。

 もしかしたら狙っていた獲物に逃げられた経験でもあるのだろうか。


「なるほど。生き残りに特化しているというわけか」

 

 小動物ほど臆病で危険察知にたけていると、ケントも聞いた覚えがある。


「まあいい。動物は今回対象外だ。無視していこう」


 別に彼は殺しが好きというわけではない。

 放置して問題ない相手をわざわざ追いかけて仕留めようとは思わなかった。


「はぁい」


 シロも不満を出さなかったのは、先に街道で間引きと称してモンスターを平らげていたせいもあるだろう。


 ケントは計算してやったわけではなかったのだが、プラスに働いたようだ。

 奥へ奥へと進んでいくと、やがて穴が十ほど密集しているエリアに到達する。


「群れでも住んでいるのか? ……他の穴よりも大きいな」


 穴の大きさの違いに気づいたケントが言うと、


「このサイズ、たぶんジャイアントワームですよ」


 シロが指摘した。


「そうなのか」


 彼は彼女の言葉をそのまま信じる。


「まあ普通に歩いただけでこれだけワームがいたんだ。ジャイアントワームがいても変じゃない。数は思っていたよりも多いが」


 ケントは驚くよりも納得して言った。


「ジャイアントワームが十匹もいるのはちょっと面倒ですけど……マスターには関係ない感じですか?」


 シロが確認するように聞く。


「もちろんだ」


 彼は即答した。


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