平原に到着
「満足したのか?」
森から出てケントが声をかけると着地したシロは、鳥の姿のまま答える。
「はい。ダッシュビートルが五匹、ストーンモンキーが三匹、ファングリスが六匹、トビヤンマが四匹、あと、アーミービーの巣を一つです」
「けっこう平らげたな」
彼女の報告に彼は目を丸くした。
そんなに時間はかかってないと思うのだが、やはり彼女の能力は高いのだろう。
「よし、ハンター組合に行ったら報告するんだ」
「はい!」
彼女は自分が腹いっぱい食べたら主人であるケントの手柄になる、ということを理解しているのだろうが、特に不満はないらしい。
(まあ俺とは感覚が違うんだろうからな)
と自分を納得させて彼は背中に乗る。
「じゃあ次は平原だな。場所はわかるか?」
「南のほうですよね。問題ないと思います」
ケントが聞くとシロは何でもないと答えた。
(俺はさっぱりわからんからなぁ)
方向磁石などに頼らなくても迷うことなく、あちらこちらに行ける生物のほうが優れているのだろう。
「じゃあ任せた!」
「はい」
シロは羽ばたいて指令通りの方向に飛んでいく。
風が気持ちいいなと思っていたら、すぐにシロは減速した。
「あの町の南の平原だと、この辺になります」
ゆっくりと旋回しながら彼女はケントに言う。
「どれどれ」
彼が下に視線を落とすとたしかに平らな地面が広がっている。
時々穴があいていたり木立が生えているが、遮へい物がすくない場所だと言ってよさそうだ。
「モンスターすくないような……ワームから地面の下にいるのか?」
ワーム以外のモンスターがすくないのは喜ばしいだろう。
「マスター、おりますか?」
シロが旋回を続けながら彼に問いかける。
「一応聞いておくが、ワームには負けないよな?」
「ええ。ワームの戦力って私の十分の一くらいだろうし、ジャイアントワームで半分くらいですから」
シロは何でもないように答えた。
「何なら飛んじゃえばワームなんて、何もできないですもん」
「空を飛べるって普通に強いよなぁ」
ケントはしみじみと言う。
自分より高い位置を抑えられると、それだけで苦戦はまぬがれない。
特に攻撃が届かない距離を確保された場合、防御か逃げるかの二択を強制されるのだ。
(《忍神》の移動系スキルであるのはあくまでも空中歩行だもんなぁ)
と彼は残念がる。
飛行ではないので長時間空中にとどまることはできない。
そのかわりに遠距離攻撃のたぐいがけっこう充実しているのが、《忍神》の特徴だと言えるだろう。
激震撃神で長時間飛び続けることができる職業は、魔法使い系くらいしかいなかったと記憶しているのだが。
「よし、じゃあ着地してくれ」
「はい」
ケントの指示に従ってシロは手近な地面に着地する。
そのとたんワームに襲われた──ということはなかった。
「ワームは音で獲物を探すだけで、敵の強さを測るスキルなんてないよな」
「そんな神業、ただのワームが持ってるはずがないですよ」
彼は半分独り言を言ったのだが、聞こえたらしいシロが返答する。
(敵の強さを測るスキルが神業なのか……)
レベルが低そうな世界だと思っていたが、想像を超えているかもしれないとケントは思う。
「じゃあ適当にワームを誘い出すか。音を出してくれ」
「どういうやり方でしょう? 私の鳴き声を聞いたらワームはおびえて出てこないと思うのですが」
ケントの指令にシロが疑問を返す。
「たしかにホワイトバードの鳴き声や羽ばたきを聞かせるのは、ワーム相手だと逆効果か」
ホワイトバードは強者であり、捕食者である。
その存在に気づけば、食われる側のワームは絶対に出てこないだろう。
「ヒューマンの姿になって足音を立てたり、石を投げたりしてみてくれ」
「わかりました」
ヒューマン相手ならワームは襲う側となるので、気づけば出てくるに違いない。
シロも賛成して少女の姿になった。




