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話が分かる男

「技の練習ですか……?」


 受付男性は即答せず、考え込む。


「ホワイトライダーのシロさんが使う技……リーゼさんが神業を見たと大興奮で話しているんですが」


 何やら不安そうな声がつむがれている。


「まあ川の水を少し切っただけですよ」


 ケントは一応説明を試みた。


「川の水を切ってザラタン一家を陸上に放り出すだんて、ケントさんにしかできないことです。あるいは神話の英雄ならできたかもしれませんが」


 受付男性はあきれる。


「うん? 神話?」


 ケントは疑問を抱くが、すぐに打ち消す。

 彼が生まれた国、世界にだっておとぎ話や神話は存在していたのだ。


 こちらの世界でも同じというのはじゅうぶん考えられる。


(それにこっちには魔法やスキルがあるわけだからな)


 彼が生まれた日本と違って、魔法が実在する以上神話の存在はより身近に感じられるのではないだろうか。

 

(俺にだってニンジャやサムライはたしょう親近感があったみたいに……いや、何か違うかもしれない?)


 自分の考えに自分で違和感を覚えてしまったので、ケントは意識を現実に戻す。


「とりあえずダメならやめておきます」


 そしてそう言った。


 できれば早めに練習できる場所を探したいのが本音だが、依頼の最中にやるようなことでもない。


 まずは依頼を達成するのにベストを尽くすべきだろう。


「平原でしたら大きな問題にならないと思います。ケントさんなら大物だって狩れるかもしれませんし」


「赤鉄ランクの依頼なのに、大物がいるのですか?」


 ケントがきょとんとして聞くと、受付男性がああと言って説明をつけたす。


「指定されているのは町に近いエリアでして、離れた地域ですとヒューマンの目と手が届いていない、未開地になっているんです。うわさでは金ランクのモンスターもいるとか」


「へえ、そんな場所なんですね」


 よく放置しているなと彼は思ったが、すぐに手を出そうにも人手と戦力が足りないのだろうと気づく。


 強いモンスターがいるとしても、町に被害が出たことがないならみだりにちょっかいを出さずそっとしておこうという考えは彼も理解できる。


「じゃあ余計なことはしないほうがいいかな」


 受付男性の反応はおそらくそういう思いから出たものだった、と判断したケントは声に出して言った。


「理解していただきまして幸いです。ケントさんのお力を疑うわけではないのですが、何しろどのようなモンスターがいるのかすらわかっていませんので」


 受付男性は恥ずかしさと申し訳なさが混在した表情で語る。


「ふむ……それを私が調査するのはまずいですか? 赤鉄ランクでできる範囲、という建前で」


 ケントはじっと彼を見ながら探りを入れた。

 単にスキルの実験をおこなうだけではない。


 あわよくば強いモンスターを発見して討伐し、ランクアップ査定を有利にしようという魂胆がある。


 レベル50以下のモンスターならいくらいようと彼の敵ではないし、空を飛べるシロが一緒なら万が一不覚をとる心配もない。


「大丈夫だと思います……本来ならもっと上のランクが適正と思われる方を、規則を理由にとどめているわけですし」


 受付男性はすこし悩んだすえ、柔軟な回答をする。


「そうですか。それはよかった」


 ケントは自分のために、そしてヒューマンのためにも彼が話のわかることを喜ぶ。


 たしかに自分がランクアップしたいという気持ちがあるのだが、危険な大物がいるなら見つけ次第退治しておこうという義侠心がないわけではないのだ。


「あまり大っぴらには言えないことなので、そのう」


 受付男性は声を落とす。


「わかりました」


 堂々と許可を出すのは難しいよなとケントも思うので、うなずいておいた。

 彼のように話のわかる相手とは長くつき合っていきたいという計算からである。

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