間引き依頼
「ザラタンの成体二匹で銀貨六枚、幼体二匹で銀貨十二枚です。つがいを連れて来てくださったので、さらに追加報酬二枚ですね。ありがとうございます」
我に返った若者はぺこりと頭を下げてそう言うと、一度店舗の奥に姿を消す。
そして報酬が入った革袋を持って戻ってくる。
「ええ。ではこれで」
ケントはシロを連れてハンター組合に戻る。
「幼体のほうが高いんだな。育てるのが大変だから安いのかと思った」
彼が考えたのは飼育コストがかかる分だけ、報酬が割引されるということだ。
「幼体と成体じゃそれぞれ違った味わいですけどねえ」
とシロは答える。
ヒューマンの相場なんて知らないが、味の違いならわかると言わんばかりだ。
「そうなんだな」
ケントは苦笑してハンター組合で聞く。
「ああ。幼体のほうがなつきやすいですし、甲殻が生え変わるんです。古くなって脱ぎ捨てられた甲殻は好事家が買い取ってくれますから」
と答えてくれたのは顔なじみになった受付男性だった。
「へえ、そうなんですね」
ザラタンが脱皮するのはケントも知っていたが、それを買い取るもの好きがいるとは想像もできなかった。
「これで二件の依頼を達成されたわけですが」
刻印をつけながら受付男性はケントにたずねる。
「まだ依頼を受けられますか? ケントさんの達成速度ですと、今日さらに二件受けておいて明日達成する、ということができると思うんですが」
「依頼を受ける日と実行する日が違っていても平気なんですか?」
彼は提案に首をひねった。
「あ、説明してませんでしたか」
受付男性はしまったという表情になりながら教えてくれる。
「依頼次第で実行期限が設けられていて、それまでに達成してもらえないと違約金が発生してしまいます。そんなに厳しくはないはずですが……」
「そうなんですね」
依頼を受けても実行しない輩がいたのかなとケントは推測した。
「一日二日くらいなら平気ですし、ケントさんなら何の問題もないでしょう」
受付男性の言う通りだろうなと彼は思う。
「じゃあランクアップに必要な残り八件を今日受けて、ということも可能ですか?」
「は、八件ですか」
ケントの質問にぎょっとして、受付男性はあわてて依頼書を確認する。
「しょ、少々お待ちください」
何か悪いこと言ったかなと彼が思いながら待っていると、受付男性は手を止めて顔をあげた。
「申し訳ありません。現在受注者が決まっていない赤鉄ランクの依頼は二件しかありません」
「そうでしたか」
残念だがやむを得ないとケントは受け入れる。
「じゃあその二件を受けておきますね」
それでももらえるものはもらっておく──何だが違う気もするが。
「ケントさんならまず大丈夫でしょうけど、めんどうでも依頼内容を確認してくださいよ」
受付男性は恐縮していたのも忘れ、苦笑とともにつっこみを入れる。
「おっと、これは失礼」
ケントは照れ笑いを浮かべて謝った。
「二件の依頼はそれぞれ別の地域のモンスターの間引きなのですが、間引いた証として討伐部位の持ち帰りが推奨されます」
と受付男性は説明する。
「間引き依頼ですか」
モンスターが増えすぎないように調整を図ろうというのだろう。
ニュアンスからケントは推測する。
「はい。一つは西のサウン街道です。近くにある森林に生息するモンスターが、人の往来をおびやかすことがあるんです。大都市なら戦力があるのですが……」
小さな町だとハンターに依頼するしかないということか。
ケントは想像する。
「もう一つは南の平原ですね。主に生息しているのはワームですが、放っておくと銀ランクでも勝てないジャイアントワームに育ってしまうんです」
「なるほど」
と彼は説明にうなずく。
(ジャイアントワーム? せいぜいレベル30くらいだろうなぁ)
それはいいとして気になっていたことをケントはたずねる。
「この大陸に来てなまってるかもしれないと思って、技の練習をしたいのですが……平原なら大丈夫でしょうか?」
街道や森林はうっかり壊したですまないだろう。
だが、モンスターが多い平原ならと考えたのだ。




