ランクアップ
「ホーンラットはあっちだね」
シロは本能なのかスキルなのか、目標のモンスターの現在地を探し当てることができるようだった。
(少し興味あるな。モンスターのその手のスキルは、たしかレベル100を超えてから解放されるはずだが)
とケントは感じる。
考えたところで答えがわかるとは思えない。
だが、この世界のモンスターにはこんなパターンがありえると頭に入れておこうと考える。
「ホワイトバードが伝説なら、この世界のレベルが低すぎるということになるが、さすがに参考例が少なすぎるもんな」
彼のつぶやきをシロは聞いていなかった。
彼女の意識は眼下に発見したホーンラットのみに向けられていたからだ。
またしても急降下をおこなう。
彼女が知るヒューマンなら軽く三回は落下しているし、死んでいるかもしれない。
ところがケントは平然としているし、バランスを崩すことすらない。
彼女も安心して活動ができるというものだった。
おかげでシロはのびのびと飛行と狩りをおこなえている。
ホーンラットの夫婦は野生の穀物をかじっていたところを、彼女に襲われた。
シロは威圧するだけでホーンラット夫婦は気絶してしまう。
すばやい動きで逃げ回るネズミ系モンスターを捕獲するためには、力の差を本能に突きつけるのが最も効果がいいのだった。
もちろんホワイトバードのような強豪種だから使える芸当だが。
シロは食事をすませてケントに報告する。
「マスター、終了しました」
「じゃあ帰ろうか」
ケントの指示に従い、彼女はファーゼの町に帰還して人型になった。
ハンター組合に戻ってことを報告すると、男性職員は銀色のスタンプを取り出す。
「ランクアップするんですが、刻印はつけるのですか?」
新しいライセンスをもらうなら意味がないのでは、とケントは問いかける。
「ええ。面倒だとお思いでしょうが、刻印をつけた後でないと新しいライセンスをお渡しできないルールなんです」
「そうなんですね」
彼は聞いてみたかっただけなので、素直にライセンスをカウンターの上に置く。
「それぞれどういうモンスターだったのですか?」
そして職員にたずねる。
討伐する前に聞くべきだったかもしれないが、うっかり忘れていたのだ。
「まずホーンラットは穀物なら何でも食べ、我々の食料に打撃を与えます。そのうえ伝染病の原因にもなります」
返ってきた職員の説明にケントはうなずく。
「ボーンアントはヒューマンに対して直接害を与える種ではないですが、巣が大きくなると他の虫がエサとして捕食されるようになり、生態系が崩れてしまいます」
「なるほど」
次の説明も彼が納得できるものだった。
「最後にビックリカエルですが、ヒューマンや人型の種を驚かせて荷物を奪うという迷惑なモンスターです。他に害はないですが、放置する利点もないので」
男性職員の口ぶりにケントはもう一度首を振る。
「ありがとうございます」
「いえいえ。これでケントさんは赤鉄にランクアップですね」
男性職員から赤いライセンスを受け取り、首からかけた。
「これで受けられる依頼は増えるわけですね」
と言うと男性職員はうなずく。
「ええ。赤鉄からは日帰りではこなせない依頼も受注できますよ」
「へえ、活動範囲が広がるわけですか」
彼の言葉にケントが興味を持つと、さらに教えてもらえた。
「赤鉄ランクになれば他の組合からの依頼も受けられるんです。薬の材料集めを手伝ってほしいとかね」
「……他の組合員の護衛依頼が増えるという認識であってますか?」
素材採取の護衛ならケントも理解できる。
彼が一瞬考えたのは商人の護衛との違いだった。
商人だって商人の組合か何かに入っているものではないのか。
「そうなりますね。組合同士の話は長くなりそうだから、今はやめておきましょう」
男性職員は苦笑して一度背を向け、赤鉄ランク用の依頼の紙をカウンターの上に並べる。




