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林の外に出てみよう

 林をしばらく歩き回るが、やせ細っていてろくなものがないとケントは気づく。


「しまったな、何もないのか」


 サバイバル知識にたけている者であれば的確な判断が下せるのかもしれないが、彼には知識も経験もない。


「よし、外に出よう」


 と彼はそうそうに考えを変える。


 誰かに助けを求めるなら、林の中よりも見晴らしがいい場所のほうがきっといい。


 ケントは方向転換して歩き出すが、やがて気づく。


「林の上まで行けばいつまで歩けばいいのか、どの辺が出口なのかわかりやすいんじゃないか?」


 今の体になるまではとうてい無理な芸当だからすぐには思いつかなかった。

 しかし、レベル200の《忍神》ならいけるのではないだろうか。


 ケントは高さが三メートル弱しかなさそうな木を見上げながら思う。


 失敗してもいいつもりでその場でぴょんと跳ねてみると、あっさり木のてっぺんを超えてしまった。


「うおっと」


 あせりながらも周囲を見回すと、左斜め前に向かって進むのが一番出口への距離が短いと確認して落下する。


 着地したがうまく衝撃を吸収できたのか無事だった。


「やっぱり完全な別物になっているんだな、俺の体」


 と彼はつぶやく。


 前の肉体では二メートルも跳べなかっただろうし、そこから着地して無事でいられたと思えない。


 わからないことだらけだが、考えても理解できるはずがないと自嘲まじりの諦観と、苦痛から解放された喜びが考察を制止する。


 まだのどは渇いていないし、空腹も感じないがいつまでもつかわからない。


「……いや、待てよ?」


 歩き出したところでふとケントは立ち止まる。


 ステータスが確認できてスキルが使えて、装備もしているならと思いながら口を動かす。


「インフィニティストレージ」

 

 毎月100円課金することで、装備やアイテムを限界なしに収納できるサービスの名前だ。


 ゲームにログインする余裕がなくなって解除したので、使えなくなっていても不思議ではない。


「使える……」


 驚きを隠せないまま、彼は中身をチェックしてみる。


 転職用のアイテム、貴重な回復アイテム、とりあえずとっておいたドロップアイテムや素材などがずらりと並んでいた。


 試しに空腹対策用のパンを取り出してみるが、スキルの『毒感知』には引っかからない。


「たしか時間停止魔法がかけられているから、冷凍庫以上に保存ができるんだっけ」


 もちろんゲームでの設定なのだが、数年前に保存したパンが問題なく食べられるとしたら、設定が現実化して活きていると考えられる。


「……まあ俺がこんなことになってる時点で今さらか」


 とつぶやいて、浮かびかけていたツッコミをケントは頭から追い出す。

 まずはひと口パンをかじってみると味は問題なかった。


「むしろ病院食より美味いかも……病院食も意外とまずくはなかったけど」


 独り言をぶつぶつ言いながら彼はパンを食べ終える。

 一個だけだと腹はふくれなかったし、今度は水分が欲しくなってきた。


「単なる水はたしか持ってなかったんだよな」


 自分のステータスを一時的に上昇させる付与ポーション、あるいは傷を癒したり状態異常を治してくれる回復ポーションなら豊富にあるのだが。


 生産職ならともかく、《忍神》のような戦闘特化職は趣味の範疇のアイテムとあまり縁がない。


 結局人里を探すべきかと思い、歩いて林の外に出た。

 外は背の低い雑草と石ころくらいしか見当たらない土地が広がっている。


 街道や人影はどこにもなかった。


「これはちょっとまずいかもしれないな」


 生き物も水辺も見つからないとなると、はっきり言ってピンチである。


 ケントがいやな汗が背中を流れるのを感じていると、背後からバサバサという大きな音が聞こえてきた。


「うん?」


 ふり返ると、彼よりもひと回りは大きな体を持った白い鳥が舞い降りてくる。

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