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刻印の話

「お疲れ様です」


 ファーゼの町のハンター組合にケントたちが顔を出すと、驚きもせず男性職員が彼らを出迎える。


「タンドンさんは無事に送り届けました」


「一日二件とはハイペースですね」


 と男性職員は言った後、申し訳なさそうに顔をくもらせた。


「何分、規則は規則ですから」


「私は気にしていませんよ」


 とケントは気さくに答える。


(例外を作ってもらうと後で面倒になるかもしれないし)


 彼なりに慎重なのだった。


「ご理解いただき、ありがとうございます」


 強者にありがちな驕りとは無縁な彼の態度に、組合の職員たちは好感を頂く。

 男性職員の左隣にいた若い女性が彼に肘内をし、何事かをささやいた。


「あっ……」


 男性はしまったという表情で声をあげた後、ひきつりそうになった顔の筋肉を素早くとりつくろう。


「申し訳ございません。依頼達成の刻印についてご説明しておりませんでしたね」


「刻印?」


 何のことだとケントが聞き返すと、男性職員はあせりを抑えた顔でやや早口で説明を開始する。


「依頼を無事に達成すれば一回ごとに認証標の裏に刻印をつけます。このシステムを使うことで、どこの組合に行ってもハンターの依頼達成数を共有できるのです」


「なるほど」


 とケントはうなずいた。


(チェーン店なら全国どこでも使えたスタンプカードみたいなもんだな)


 異世界でも似たような発想は生まれるらしいと考えれば、親近感もわく。


「認識票を提出願います」


 言われたとおりに差し出すと、◇マークが二つ刻まれて返還される。


「これを後三つ貯めればランクアップか」


 ゲーム感覚で少し楽しいなとケントは思う。


 子どもっぽくはあるが、せっかくの異世界なのだから楽しみは多いほうが好ましい。


「今日はどんな依頼があるんですか?」


 とケントが聞くと男性職員は三枚の紙を差し出す。


「左から順番にモンスター退治になります。ホーンラット、ビックリガエル、ボーンアントの討伐依頼ですね」


「わかるか、シロ?」


 男性から紙を受け取った彼は、シロに聞いてみた。


「ホーンラットは角が一本生えてる大ネズミでとても弱いし、美味しいです」


 とまず彼女は言う。


「ビックリガエルはヒューマンを驚かすのが好きなカエルで、そこそこ美味しいです」


 次に彼女は少し思い出しながら言った。


「ボーンアントは生き物の骨を集めて巣を作る赤いアリで、弱くて美味しいです」


 最後に彼女はちょっと頬をゆるめながら話す。


「モンスターの特徴を聞いてるのか、食材としての評価を聞いてるのかわからなくなってきた」


 ケントは呆れたが、彼女は鳥なのだ。


「地上のモンスターはお前からすれば食事でしかないということか」


「そうですよ」


 シロは悪びれずに答える。


「……お前の食事を兼ねて討伐してしまうか。これって組合としてはどうなんですか?」


 ケントは念のため確認しておこうと思って、苦笑しながら聞いていた男性職員にたずねる。


「指定されたモンスターを倒していただけるなら、そのあたりは不問です。討伐証明の持ち帰りは今回不要ですから」


「討伐部位証明?」


 とケントが聞き返すと、彼はうなずいて説明を捕捉した。


「ええ。モンスターの指定部位を持ち帰ることで討伐を証明し、追加の報酬が発生する制度です。基本的に黒鉄ランクではありませんが」


「そうなんですね」

 

 黒鉄ランクのうちはお金に困るかもしれないなとケントは思うながら返事をする。


「まあシロが全部食べるだけでいいなら、追加報酬はなくてもいいか」


 さすがに少しずうずうしいだろうとケントは思った。


「ごはんごはん」


 シロは早くも獲物を食べるつもりでいっぱいで、楽しそうに歌をうたいはじめる。


「どれも駆け出しの黒鉄ハンターには手強いはずだけど……ケントさんだもんなぁ」

 

 と男性職員は小声でつぶやいた。

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