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シロ対拳士

 シロと拳士の男は組合を出て路上で向かい合う。

 拳士と違ってシロはまったく緊張感がなく、あくびをしている。


 拳士と自分の力の差を見抜いているのだろうか。


(いや、単にヒューマンを舐めているだけかもしれない)


 とケントは自分と初めて会った時のシロを思い出しながら考えた。

 

「こんな小娘に戦わせるなんて恥を知れ、恥を」


 と男はいきなりケントをののしる。


「お嬢ちゃん、痛い思いしたくないならすぐ降参するんだよ」


 そして急に優しいねこなで声でシロに話しかけた。


「きもっ」


 シロは遠慮なく顔をしかめ、思いっきり男をこき下ろす。

 タンドンは苦笑し、ケントは笑いをこらえるのに必死だった。


「このメスガキがぁ……」


 厚意を無下にされたと拳士の男は全身を震わせ、顔を紅潮させ怒りを体現する。


「マスターをさんざん馬鹿にしておいて、何を今さら?」


 どうやらシロはケントを悪く言われたことを怒っているらしい。

 意外な忠誠心に彼が思わず彼女の幼く整った顔立ちを見つめる。


「お、喧嘩か?」


「いいぞ、やれやれ」


 無責任に二人の対決をあおる見物客がいつのまにか増えていた。


「はっ、じゃあそのマスターとやらの力をぶへっ」


 男がしゃべってる最中、シロは拳を彼の顔面にめり込ませる。

 男は後方に縦の四回転をしたあげく、地面に激突した。


 ケントは何が起こったか理解できたが、タンドンや見物客たちには展開が理解できず凍り付く。


「マスター、ちゃんと殺しませんでしたよ?」


 シロは得意そうにケントにアピールした。


「見直したぞ。お前、ちゃんと手加減できるんだなぁ」


 両手を広げながら歩いてきた彼女の頭に手を置き、優しくなででやる。

 レベル差を考えれば男はシロに殺されなかっただけで幸運なのだ。


「えへへー」


 シロはうれしそうに目を細め、白い歯をこぼす。


「まあ当然の結果なんでしょうけどね……」


 タンドンは我に返るとつぶやく。


 ホワイトバードがシロだと彼は知っているので、目の前の光景は当たり前だと飲み込めるのだ。


 そうとは知らない他の見物客は呆然としている。


「あいつ銀のルートだろ? あいつを一撃?」


「あの女の子めちゃくちゃ強いぞ!」


 見物客の声でケントは今の男が銀のランクだったと知った。


(あれで、レベル30で銀だと?)


 八つあるランクの上から三番めでレベル30はいくら何でも弱すぎるのではないか。


 彼は疑問と困惑を浮かべずにはいられない。


「何であっちの男をマスターって呼んでるんだ?」


「あっちの男も同じくらい強いのか?」


 見物客の視線がケントへと移る。

 そのタイミングを見計らってタンドンが大きな声を出す。


「さすがシロ殿! 伝説のホワイトバードは別格に強いですね!」


 よく通る声を聞いたケントはなるほどと思う。


(さてはタンドンさん、これをさっきから狙っていたな)


 見た目は小柄な少女にすぎないシロが、銀のハンターとして有名な男を圧倒する。


 そのインパクトに見物者が度肝を抜かれたところで、実は少女の正体が伝説のホワイトバードだと明かす。


 商人らしい見事な計算だった。


 彼自身にとってメリットはあってもデメリットは思いつかなかったので、素直に感心する。


「ホワイトバード?」


「あの伝説の?」


「いや、あくまでも伝説だろ?」


 信じられずに聞き返す者、そしてタンドンの言葉を疑う者が出た。


「でもよお、ルートの奴をあっさりのしちまっただろ。ホワイトバード並みのバケモノじゃなきゃ、そんなことはできないんじゃないか?」


 そんな中、そう言いだす者も現れる。


「た、たしかに……ルートを簡単に倒せるなんて、最低でも金クラスの強さはあるんだろうな」


 風向きがどこからか変わりはじめ、シロがホワイトバードだと信じる者が増えはじめた。

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