本当かよ?
「おいおい、本当かよ、その話はよ?」
タンドンの話を聞いていた一人の大男が疑問をぶつける。
身長は百九十センチ近くあり、全身が筋肉の鎧に包まれていた。
ケントが知る武闘着と呼ばれるものを着ていて、両手には銀色の手甲をつけている。
(拳士、格闘家系の職業かな)
と彼は見当つけた。
素手で戦うタイプの職業で、スピードを活かしたヒットアンドウェイを得意とする。
スピードを活かす点はニンジャと重なるが、ニンジャと違って「気功」という回復系スキルを会得可能だ。
「本当ですよ。すぐにばれるような嘘をつく理由がないじゃありませんか」
タンドンが心外そうに言うが、男はにやにやと小ばかにした笑いを浮かべて、ケントとシロを見る。
「見たこともない珍妙な格好をした男と、ただのメスガキだろ? こんなはったりに手を貸してどういうつもりなんだか」
露骨にさげすみ彼らを挑発していた。
「あのう、何の根拠もなく他の人をおとしめるような発言は、慎んでいただきたいのですけど」
見かねたらしい受付嬢が注意するが、大男は鼻で笑い飛ばす。
「とんでもねえデマにだまされないよう注意してやったんだぜ? むしろ感謝してもらいたいくらいだね」
そして視線をケントに向ける。
「何とか言ったらどうなんだ、おい? 図星すぎて反論もできねえか?」
「いやー……こういう場合、どういう対応すればいいんだ?」
ケントは本気で困惑していたので、思っていたことを口に出した。
彼としてはホワイトライダーだと信じてもらえなくても、別に痛くないのである。
「……ぷっ」
タンドンがこらえきれずに吹き出す。
ケントが挑発に乗るどころかまったく相手にしていないところが、彼のツボに入ったのだろう。
「この野郎」
大男は顔を真っ赤に染め、こめかみをひくひくと動かす。
いきなり因縁をつけた挙句、相手にされないと怒り出すとはずいぶんと身勝手な男だなとケントは思う。
彼としてはこの町にこだわる理由がない。
「マスター、私がやりましょうか」
とシロが申し出る。
「……お前、手加減とかできるのか?」
ケントの問いに彼女は少し考えてからうなずいた。
「この姿ならやりすぎたりはしませんよ。たぶん」
「ならいいさ。殺さなければ」
ケントは彼女を信じてみることにする。
(まあ筋肉ムキムキだし、レベル50くらいあってもおかしくないだろ)
同時に彼にからんできた男も、見た目通り強いのだろうという期待もあった。
「では外に出たほうがいいでしょうね。建物の中で暴れるのは禁止されていますから」
タンドンが横から言う。
彼はケントとシロの強さを信じ切っているらしく、止めようとしなかった。
ケントは彼に小声で問いかける。
「あの男、どれくらい強いんですか?」
「……戦力で言うと30くらいでしょうか」
タンドンの答えはケントには理解しがたいものだった。
(レベルじゃないのか。戦力ってなんだよ? 戦闘力みたいなものか?)
ケントは内心不満を浮かべたが、異世界だから仕方ないと切り替える。
「ホワイトバードだとどれくらいなんですか?」
と彼はタンドンに聞く。
シロの強さがどれくらいなのか教わることで、戦力をレベルに換算すればどうなるのか推しはかろうと考えたのだ。
聞かれた商人は一瞬怪訝そうな顔をするが、大陸ごとで強さの表現は違うのかもしれないと思ったのか、すぐに教えてくれる。
「個体にもよりますが、戦力50から60くらいだと言われていますね。はっきり言って彼では勝ち目がないと思いますが」
「なるほど」
レベル1と戦力1はほぼ同じかと解釈しながらケントは返事をした。
(レベル30分の差があるなら、手加減しないと虐殺になるな)
と彼は考え、場合によっては手を出そうと決める。




